R+R

□子守り
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私ウェンディ・テスタバーガー

自慢じゃないけど成績が良くて、見た目も良くて、クラスでも中心的な存在だと思ってる。

彼氏だっているし
…毎回嘔吐されるんだけど

それもまぁ私のことが好きだからよね
そんな彼のことだって大好きよ。

同じ黒髪ってだけでも素敵なのに、彼、未だに私にキスもしてくれないの

大切にされてるのよね、私。



…なんの話だったかしら

そう!私は来週行われるテストに向けて、今勉強中なの

いつもは自分の部屋でしてるんだけど、どうにも気が散らかってしまって

気分転換に公園に来たところ。

休日ということもあって人も多かったけど、うるさい程ではない。

入り口からしばらく奥に歩くとひらけた場所に出た。

歩いてた道は途切れ、そこからは芝生が青々と広がっている。

そこには子供から大人までそれぞれが伸びやかに楽しんでいた

親子でキャッチボールする者や、友達同士駆け回っている子もいる

休日、って感じ。

きょろきょろと辺りを見回すと、勉強のできそうなスペースがあった

広場の横に備えられた休憩スペース

長椅子、長テーブルの上に、日焼けのためか天蓋のように頭上を植物で覆われた場所

所々の木漏れ日が綺麗で、まるでピクニックに来たみたい


ほぅと眺めていたけど、はっ、待って私!
今日は勉強に来たのよ!

私はふるふると頭を振って、一番良さげな席に座った。

ここなら一番日が当たらないし、暗すぎないし、広場が眺められる。

あぁ、飲み物を買ってくればよかった。

私は1つため息をついて教科書を広げた







「…ね…てば……き…ディ!!」

「?」

集中し過ぎたみたい

誰かが何か叫んでたけどまったく聞き取れなかった。

座ってから初めて顔を上げれば、目の前には見覚えのある男の子が立っていた

「ウェンディ!聞いてるの?!」

「カイル!びっくりした、どうしたの?」

「さっきから何回も呼んでるじゃないか!」


カイルは眉根を寄せて不機嫌そうに言った

そんな何回も呼ばれたかしら…
ごめんなさい、と謝ると彼は溜息をついた。

そして、ふと彼の後ろに誰かいるのに気づく。

カイルよりも大分身長が低くて、足にしがみつくように立っていた。

「…その子は?」

「弟のアイクだよ。突然なんだけどお願いがあるんだ!ちょっとだけアイクのこと見ててくれないかな?」

彼は机に両手を乗せると、身を乗り出してお願いしてきた。

アイクと紹介された子は、おずおずと顔を出してきて「くっきーもんすたー」と舌ったらずに呟いた

年齢はどのくらいだろう… 幼稚園の子にしては小さいと思う

「僕これから大事な試合があるんだ!なのにアイクの奴ついて来ちゃってさ、帰れって言っても聞かないんだ。だからちょっとだけ!頼むよ!」

カイルは困った顔をして、アイクの頭をくしゃっと撫で付ける

「そんなこと言われても、私だって予定が…」

「勉強だけだろ?息抜きと思ってさ!すぐ迎えに来るから」

それじゃ大人しくしてろよアイク!と、カイルはさっさと弟を置いて走って行ってしまった…







「はぁ…」

もはや勉強どころではない
私は溜息をついた。

結局子守を引き受ける形になってしまった

アイクは1人黙々とおもちゃで遊んでいる

最初は勉強片手間に見ているだけだし大丈夫よ、って思ってたけど

そんな事はなかった。


3歳児って大変。

少し目を話すとあっという間に移動してて、遠くにいる

これじゃあ眺めてるだけにもいかない。

「あばばば」

「はいはい、これね」

指さされた車のおもちゃをアイクに渡す。


広場の日の下に出て来て、彼の人形劇の相手をさせられている

明るい日光が目に映るものすべて綺麗に照らし、時々強く吹く風がさわさわと芝生を揺らす

それに合わせていくつもの葉がきらめく

周りからはきゃっきゃと楽しそうな声も聞こえて来て、こちらまで気分が楽しくなりそうだ。

目の前を走り去る子供達に、自然が香る爽やかな匂い


…落ち着く。

さっきまで勉強で張り詰めてた気分が徐々に溶けて来た。

座り込んで地面と接してる部分からは日に暖められた地熱が心地よくて動けなくなりそうだ。

疲れが取れていく気分

アイクを見てみると、彼は一生懸命車を走らせていた。

ぎこちないその姿が何だか可愛く見える。


最初は気づかなかったけど、アイクって賢そうな顔をしてる

初めてかけられた言葉が「くっきーもんすたー」だったから分からなかったけれど

とつとつと会話をしているうちに、彼が2歳も3歳も年が上のように感じて
子供相手だ、という抵抗が薄れて来た。

じっと眺めているとアイクと目が合う
彼の透き通った黒目に私の顔が写り込んだ

ふと、無意識に言葉が口をついて

「ねぇアイク」

「?」

「喉乾かない?」

「みるくー」

「お姉ちゃんが奢ってあげる」


そんなこと、考えてもいなかったのに勝手に出て来た。

自分で少し驚いたが、アイクはぱぁっと笑ってくれた。

子供の満面の笑みに、こちらも笑ってしまう

まぁ、いっか。


「自販機あっちー」

アイクは立ち上がると私の手を取って、近くの自販機に駆け出した。

握られた小さな手がとても力強くて「ちょっと」と引き止めても関係なく引きずられてしまった

自販機まで走りながら

「ミルクなんてあったかしら」

「みるくじゃなきゃやー」

アイクはニコニコと、たまにこちらを振り返りながら走る。

私は微笑ましくなって握っている手に少し力を込めた。




   子守り



(思ったより楽しかったわね。
また次も遊んであげようかしら)

「おねーちゃんすきー」

「ふふ、ありがとう」


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