luce

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重い瞼を開くと、まだ明るい空が目に映った。聞き慣れた草花の音が聞こえる。
背中い痛いこの感触は、きっとペンキのはげたあのベンチだ。


目が覚めた?


声がする。
視界がはっきりしてくると、空と一緒に覗き込む男の顔もはっきりしてきた。


王子…
よかった、やっと名前を呼んでもらえた。


彼は儚い笑顔で笑って、頬をそっとなでてくれた。
その手を握り締め、起き上がろうとする。まだ頭痛の残りはあるが、どうってことはない。

彼の膝枕から起き上がると、少し眩暈がしたが、彼が支えてくれた。
ベンチの背もたれに深く体を預ける


嫌な夢を見てた感じ…
そうだね。長い悪夢だった。
全部…思い出した…


途端目に涙が浮かび、こらえ切れず嗚咽を漏らす。

見られたくなくて顔を背けると、彼はそっと引き寄せ肩を貸してくれた。
なまえは抗うこともせず、その肩に顔をうずめ小さく泣き出した。

彼はそんな彼女の背に手を回し


こんなに、小さかったんだね。僕より逞しいから、びっくりだよ


と、ぐっと力を込め抱きしめてくれた。その優しさと安堵感に、さらになまえの鳴き声も大きくなっていった。




暫くの間、その状態が続き
泣き止むと彼女も彼の背に手を回して

ごめん

とだけつぶやいた。
彼は右手を彼女の頭をあやすように撫でて

お帰り

と囁いた。




私、彼女の能力で記憶を無くしてたのね
そうだな。記憶が戻らなかったのは、無くしてからの時間が長すぎたからだろう
あの時の頭痛は、思い出そうとしてたのか
今じゃ、すっかり元気になったみたいだな


くすくすと笑いあう。
ほんとに、あの頃に戻ったみたい


でも、私の記憶を戻す為だけに…面倒かけたね
そんなことない。
記憶が無かったとはいえ…傷付けちゃったし
これの事か?なんて事無いよ


彼は傷口をぽんぽんと叩くと、なんとも無いと笑ってみせた。
傷口には、着ていたエプロンの生地と紐で手当てしてある。傷は浅かったみたいで、出血は止まっていた

だとしても私のせいだ。なまえは眉根を寄せると困った様に傷口を見つめる



私のことくらい、ほっとけばよかったのに
…そんな事はできない
貴方、王様になるんでしょ?他にもっと大切なことが…
なまえ!


びくりと体を震わす。彼のほうを見ると、少し怒っているようにも伺えた。


僕に向かって、そんな事をいうな!
だって… 私、貴方の護衛のために生まれてきたのよ?なのに守る事も、役に立つ事もしなくて…それに…その…
いいんだ。
え?
それでいい。僕は昔から嫌だったんだ。君が僕の護衛となることに
そんな…じゃぁ、私…
君の事が嫌いと言ってるわけじゃない。護衛として、僕のせいで死んでしまうかもしれない君の立場が嫌いだったんだ


そして手を取る。なまえはぎくしゃくとそれを受けいれる。


君は、もう僕の護衛じゃなくて良いんだ。
…いいの?
もちろん。ほら、さっきの答えをもう一度教えてよ
さっきの答え?
言っただろ、こうやって

彼は同じように彼女の耳元で囁く


結婚してほしいんだ。
なっ…!!
ね、さっきは断られちゃったけど。今なら期待してもいいよね


彼はなまえの首元から覗いてる、少し古ぼけて痛んでしまった白い首飾りを愛おしそうに撫でつけ額にキスをした。





Fun.

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