luce

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数年が経ち、国から送られた敵に屈しそうになった。

ここ最近護衛とかいう奴らの刺客が多くなって来ていて、そのレベルも格段に上がって来ている様に思えた。

もう街にはなまえに刃向かおうなんて輩はいなくなっていたので、もはや国と対峙している様な気分だ。

今日はたまたま1人。あのいつも気転のきく錯視の女とは一緒でなかった


かろうじてその敵に勝つことが出来たが、徐々に強くなってきていることを危惧して、その根元を断ち切ろうとなまえは王宮に忍び込むことにした。





夜、門番を通り抜け、見回りの奴らもかわし、城の足元まで近寄ることが出来た。
ぐるりと一周しながら窓の開いている場所を見つけ、その一室に身を潜めることにした。

どうやらメイドの一室のようで、ベットは空だ。乱れた様子もないから、まだ働いているのであろう。
部屋の主が来るまで物陰に身を潜める


時間は深夜だ。
いくら仕事の多いメイドでも、そろそろ就寝の時間だろう。既に右手には花瓶に挿してあった一輪を短刀に変えてある

暫くして、一人の女が夜間着で部屋に入ってきた。
手に持つ蝋燭をサイドテーブルに置くと、息を吹きかけ火を消し、もそもそとベットに潜り込んで行った。

布団の上下が落ち着いてきたのを確認すると、そろそろと近寄り、掛け布団を剥ぎ、カーテンを止めてあった紐で手足を拘束した。

女はまだ寝ぼけている。
呑気なやつだ。

肩を揺さぶり、眠りから起こした。小さなことでもいいから、情報が欲しかったのだ。
この城の詳細と、護衛のことと

目を覚ましたメイドは二、三ど瞬きながら縛られた手元となまえの顔を交互に見つめ、それからはっと驚き、泣きながら私の名前を呼んだ。


…なぜ私の名前を知ってる?
私のこと、お覚えではありませんか?
お前なんか知らない
なまえ様!
…気持ちの悪いやつだ
幼少の頃を覚えてはいないのですか?よく4人で遊んだではありませんか!
…。
私はそのとき、貴女様に仕えていた侍女で御座います!
侍女?私は生まれた時から独りだ。でたらめを言うな!!


しかし話していくうちに、この女は自分に害は加えないだろうと予測し、落ち着いた頃に開放することにした

とたんに抱きつかれ、あたふたしていると脳の奥がチリッと痛み、意識を失った…






目を覚ますと、そこは侍女の部屋であった。気を失って結構な時間が経ってしまったようだ。暗かった外は、白み始めていた

ベットから上半身を起こし、横を見ると足元に突っ伏しながら眠っている侍女がいた。

目線に気がついたのか、目が覚めるとニコニコと水を差し出し、風呂にも連れて行かれた。
嫌がる私を無視して背中を押すのだ


風呂から上がると、着ていた私の服はなく、代わりに女が着ていた侍女と同じ洋服が置いてあった

…私の服は?
あら、またあれを着るのですか?
こんな物着れない
そうおっしゃらないで。着れないのでしたら私が…
入ってくるな!
そうですか?


渋々袖を通すと、髪も整えてくれた。ボサボサだった私の髪は丁寧なブラッシングの後、ちょっと艶やかになった。

鏡台の中には見慣れない私がいた。

侍女もその姿に満足したのか、うんうんと何度も頷いて、まるであの時に戻れたみたい、と微笑んでいた。

なまえはなんとも言えない気持ちだ。普段なら人を近寄らせないのに、なぜかこの侍女には少し甘くなってしまってる気がする…
きっと押しの強い女だからだ、そうだ、そうなのだ。

独りごちに頭の中を整理していると、突然会わせたい人がいる、と手をとりどこかに連れて行かれた



嫌に長い廊下を二人で歩いている。ふかふかの絨毯に、豪華な調度品、目を奪われる絵画に、鮮やかな壁細工。

まるで別世界だ。
ほぉ、と見惚れる度に侍女に注意された。

しばらく歩いていると、廊下のちょうど角の辺り、左に曲がった先から聞き覚えのある声が聞こえてきた。


途端になまえは弾かれたように身体を壁に寄せ、警戒しながらその声を聞いた

あの男だ。
なぜここにいる

そろそろと壁を這い、曲がり角の先を伺うとやはりあいつだった。
男の横には年上の男がいて、執事のようだ。

町で会うよりも高そうな服を着ていて、まるで噂に聞く王子のようである。

不思議そうにしていたメイドの女に聞くと、あれは紛れもない王子であり、私に合わせたい人だと言う

なまえ渋面を作り、後ろに後ずさった。

町で会うあの男だと決まったわけでは無いが、そっくりな奴だろうと今は会いたくない…



すると誰だ、とあの男と似た声が聞こえた

びくりと肩を縮こませるのと同時に、曲がり角から男に似た王子と執事が姿を現す

見つかってしまった。
とっさに侍女に私の正体は黙るようにと目線で伝える。侍女は何だか悲しそうにはしていたが、頷いた。


現れた王子はじろじろとなまえの様子を伺う。執事も動じない。
侍女はいいたそうにずうずしているが、睨んで制した。

君は?

少しの沈黙の後、唐突に王子は口を開いた。

…みょうじと申します。
新しい侍女でしょうか?
そ、そうなんですよ…
へぇ、そうなんだ。これから宜しくね
…そんな、恐れ多い


手を差し出されたが顔が歪みそうになるのをこらえ、スカートをつまみ一礼してやり過ごした。


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