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ホテルに入ってすぐ目の前にフロントがあった。
中はとても清楚感があって、敷かれている絨毯もふかふかだ

白を基調としていて、外よりも明るく上品ないい匂いがする…

目があったフロントのお姉さんと二、三言葉を交わして、三階の角部屋の鍵を受け取った。

ここ周辺で比較的綺麗そうなホテルの予約を取ったのだが…思った以上だ。

先ほど萎んだばかりの期待がまた膨らんできた気がする。単純だとは思うけど仕方ない。

だってどこを取っても日本らしさが無くて、映画で見るようなおしゃれな空間が目の前にあるんだもの

わくわくしない訳がない!


鍵を握りしめ、キャリーケースとゲージを持ちながらエレベーターに向かった。

荷物を持ってくれるようなサービスを受けれるレベルのホテルではないので、自分で運ぶ。

目的の部屋の前まで来ると、カードキーを使って中に入れば……何だここ!

ベットでか!
部屋広っ!
うぉぉ!シャワーヘッド固定!


きゃー!何か装飾までも物珍しくて早速スマホでパシャパシャと収めていった。





夜になり、食事はホテルで取ることにした。
5階にブュッフェのレストランがあるらしく、宿泊客は利用自由のようだ。

シロはおとなしくお留守番中。

中に入るとがやがやと、すでにたくさんの人達がいた。
入り口からも見える料理は、品揃えも豊富でやはりというかイタリア料理が目立つ。
見たことのないメニューも多くて席につく前からよだれが出そうだ




…つい食べ過ぎてしまった

食後の紅茶も頂き、部屋に帰ろうと席を立った瞬間

「こんばんは、お嬢さん」

突然後ろから声をかけられた。

まるでこの瞬間を待っていたかのように、ぴったりなタイミングでその人物はゆっくりと横に移動して来る。

現れたその相手は、小綺麗なスーツをまとった、いかにも頭の悪そうな男だった

格好は良いのだが…
その、見た目で判断するような事は、しないようにしているのだけど
でも顔から得られる印象は、服装とはちぐはぐすぎて違和感が拭えなかった…


(こういうのは構っちゃダメなのよね)

私は警戒心を顔に出さず、不思議そうにきょとんとする。
この方が穏便にことが済みそうな気がしたから

すると向こうは片言の日本語で「こんにちは、かわいいね」と肩を組んできた

慣れた手つきでするものだから、びくりと肩が震えた

男から酒の匂いがする…

払い除けたい気持ちを抑え、おどおどと、まるで慣れない、とジェスチャーで男に伝えるが
しかしそんな事も構わず「お嬢さん、おすすめしたい」と無理やり歩き出した

肩を組まれたままぐいぐいと押され、ブュッフェ会場を出て、長い廊下を進む


言葉に関してシロのスタンド能力は、かかった私が認知することでも発動するみたいだ。

ちらりと男の足元を見れば、シロのスタンドが見えた。

その間も絶え間なく私に声をかけてくるが、イタリア語は分からない、と演技を続けた


角を曲がり辺りに誰もいなくなると、男は足を止めようやく肩から腕を外した

私は手の置かれていたその場所を叩いて綺麗にしたい衝動をぐっと抑える

そして向き合うようにこちらを見て、まるで品定めするかのように下から上をジロジロと見られた

(…何だこいつ。)

鳥肌が立つ。

しかし誰もいないのはこちらも好都合だ


男は「まぁ、ジャップになに言っても通じないと思うがこれさえ見れば…」と上着の懐に手を突っ込んだ所で

「やっぱりね。どうりでバカっぽいと思った」

どこからか発せられた流暢なイタリア語に驚いたのか
男がはっとこちらを見て

そして目が合い

膝から力が抜けてくように
どう、と床に倒れこんだ…


「Moon without the stars…」

自らの額に現れた、不思議な光彩を放つ瞳は静かに瞼を下ろし、そして跡形もなく消えた

私は前髪を持ち上げる腕を下ろし、手が乗せられていた肩をやっとの思いでパッパと払い落とし、すぐに辺りを確認する

多分従業員しか通らないような場所なのだろう、遠くの方から賑やかな声が聞こえて来るぐらいで
この場所はとても静かだ。

派手な音を立てて倒れた男に気づいた人は居ないみたいで、ふぅと胸をなでおろした。

倒れた男からは静かな寝息が聞こえてきた。


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