ちょこっと図書室
□Buddy
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空港から出て、ポケットに手を入れ財布を取り出す。
トーマ「…残金2050円…はぁ…」
思わず溜息。
ガオモン『お労しやマスター…その手持ちですと一泊二泊が限度かと…』
トーマ「そうだな、安いビジネスホテルに泊まるにしても食事は付かないだろうから、その辺のコンビニでテキトーに食事を買って、最悪野宿するかネットカフェに寝泊まりといったところか…」
携帯の中の友人が困らないように携帯の充電も何処かでしなければならないし、困った。
貯金は500円くらい、手持ちは先ほどの記述通り。僕、トーマ・H・ノルシュタインは人生で一番のどん底…いや、今から更にその手持ちも無くなると考え、崖の目の前で今にも落ちかけて必死に手をばたつかせているといった状態だ。
日本への出張が決まった時、僕は胸を躍らせた。母さんの故郷である日本、小さい頃慣れ親しんだ地でまた暮らせると僕は夜遅くまでガオモンに日本で暮らしていた頃のことを話し込んだ。それ程楽しみにしていた。
…しかしどうしたことか、空港に着いて迎えの者を待っていたのだが、その迎えがなかなか来ない。電話を入れても留守電で、長い間待たされていた僕は一緒にいた使用人に荷物を預け一度手洗いに行ったのだが…戻ってくればまさかの使用人と荷物の消失。空港の中を散々探し回っても見付からず、諦めて空港を出たところで手元に残った物二つの内の一つ、携帯が鳴った。
―貴方の役目は今日で終わりです。今までお疲れ様でした。
それだけ言うと電話はぷつりと一方的に切られる。
残ったのはいつスられたのかカード類と万札がごっそり抜かれている財布に、携帯だけだった。
トーマ「さぁ…これからどうするか」
ガオモン『何処かで仕事をさせてもらうにも、現在マスターは14歳、日本ではこの歳で雇ってくれる所はそうそう無いでしょうし…取り敢えず、スられたカードの口座は使われないようにストップしておきました』
トーマ「ありがとう。落ち着いた頃にカードを作り直すからその時に書き換えておいてくれ」
ガオモン『イエス』
取られた貯金はその内返してもらうとして、さぁ今からは本当にどうしたものか。
殆ど知らないといってもいい場所に降り立ち、フラフラと休むことなく闇雲に歩みを進める。
得体の知れない金髪ハーフの14歳を雇おうという会社が何処にあると言うのか、歩きながらチラリと店の【アルバイト求む!】などと言う広告を視界に捉えまた溜息をつく。
トーマ「駄目もとで行ってみるか、だが、行くにしても履歴書と証明写真を買うのにもお金がかかる…昨日までの生活がまるで嘘のようだ。…ガオモン、君はこんな落ちぶれた僕の傍にまだいてくれるというのかい?」
ガオモン『私の居場所は、マスターだけですから』
そんな彼の言葉につーんと目頭が熱くなる。あぁ、そうだ、僕はまだ全てを失ったわけではない。僕にはまだ優しくて心強い友人がポケットのケータイの中にいるんだ。僕を信じて付いて来てくれている彼の為にも、僕は一刻も早く安定した拠点を探さなければならないのだ。
しかし、現実は厳しい。分かりきっている事だが、履歴書無しで面接は出来ないかと聞いてみれば門前払い。昼も食べずに出てきたから腹は今まで聞いたことがないような声で鳴き出すし、だが一食食べるのも勿体無いと思ってしまい腹の悲鳴を完全に無視。雇ってくれそうな所がないか重い足取りでとにかく歩くしかなかった。
トーマ「こんな状態じゃ“アレ”を調べることもままならないな…」
「ちょっと…!やめてよ!やめてってばぁ!」
トーマ「…ん?」
目星い店を探している途中、悲鳴のような声が聞こえてそちらを見る。
「ぶつかっといてそれはないだろう?さぁ、さっさとこっち来い!!」
「だからちゃんと謝ったじゃない!もうっいーやっ!はーなーしーてぇ〜!!!」
「ジタバタすんなッ!痛い目みたくないだろう!!?」
何やら小学生くらいの女の子を、そちらの筋らしき男二人が腕を掴んで無理やり連れ去ろうとしていた。
ガオモン『今の日本では、ああ言う輩ばかりが上に伸し上がるようで。先が思いやられますね』
トーマ「だな。見ていて実に見苦しい。…おい」
女の子の腕を掴んでいる男の肩に手を置く。男は鬱陶しそうに僕を見るともう一人の男に女の子を預け僕の胸ぐらをガッと掴み唾を撒き散らしながら下品な罵倒を履いた。
「ああ?俺達ゃ忙しいんだよッ!見て分かんねぇのかこの金バエ頭の兄ちゃんよォ!金バエは金バエらしく糞でも探してな!!!」
トーマ「はぁ…全く、見た目も然ることながら言う事まで全てが下品だな」
胸ぐらを掴まれてなお怯む事泣く淡々と話せば、男は額に筋を浮かびあがらせ大きく腕を後ろに引いた。
トーマ「口で勝てなければ直ぐに手が出る。まるで子供と変わらない。成長が見られない」
「黙れェッ!!」
男の拳が振り降ろされ僕の眼前に近づいて来た時、女の子が恐怖で悲鳴を上げた。
トーマ「男なら…」
「グオっ…!!?」
スっと首を横にそらして軽く男の拳を避けると鳩尾に一発。男は呻きながら地面に沈んだ。
トーマ「ladyにはもっと紳士的に接するべきだ。そうだろう?」
ガオモン『イエスマスター』
仲間が地面に伏せているのを見て頭に来たらしいもう一人の男は、女の子を突き飛ばすとズカズカ僕の前に迫って来て殴りかかってきた。
まぁこれも、僕は難なく避けさせてもらってさっきの男同様、鳩尾に一発叩き込んで終わらせてもらったわけだが。
トーマ「君、大丈夫?怪我は?」
クズな男達を睨みつけた後、直ぐに優しい紳士的な表情を作ると地面に座り込んでいる女の子へと手を差し伸べた。
女の子はぼーっと僕の顔を見ると、ハッと慌てて自力で立ち上がり頭を下げてきた。
「あ、あああの…!あ、ありがとうございますっ!///」
トーマ「いや、困っているLadyを助けるのは紳士として当然さ。それじゃ僕は……………あの」
「はいっ!!?」
格好良く決めてその場を去ろうとした手前、現在の自分の置かれている状況を思い出して恥ずかしながら目の前の女の子にヘルプを求めることにした。