ちょこっと図書室
□男子中学生と文学少女
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太一「…風が強くて全く読めねぇ…」
夕焼けに照らされオレンジ色に染まる河川敷で、俺は一人そこに寝そべって本を読んでいた。
太一「(失敗したなぁ…河原で本なんて読むんじゃなかった)」
もう帰るか、そう思い立ち上がろうとしたところ…
太一「ん?」
俺の後ろに一人の少女が立っていた。
太一「………」
アリス「………」
少女は無言で俺の斜め後ろへと腰を下ろす。
太一「………」
アリス「………」
鬱陶しいくらいに強い風が吹く中、お互い無言。
太一「………」
アリス「………」
太一「………」
アリス「………」
太一「………(き…気不味いっ…!!)」
何!?何だ!?誰だ!?何で無言なんだ!!?このクソ広い河原でわざわざ俺の脇に座っといて…!
何の用か知らんが、やっぱり俺から声をかけるべきか?…ん?でも、何で?とにかく、俺女の子に気の利いたセリフなんて言えないよ…
太一「………夕焼けが綺麗ですね」
いかんいかんいかん!そんな在り来りなセリフこの状況に合わない…!そう、この状況…夕日に染まる河原で孤独に本を読む少年と出会う幻想的なシチュエーション!
…多分この人、ロマンチックで非現実的なボーイミッツガールを期待しているんでは…?
アリス「………///(チラッ…チラッ…」
太一「(どうもそんな感じだぁ…!)」
となると、イカした一言だな…
だいたい俺は友人二人がバイトで忙しくて暇だから一人で読書しているだけであって、何の設定もない普通の少年なんですけどっ…!
アリス「………///(ソワソワ…」
とにかく、彼女の期待を裏切るわけにもいかん。飛ばすぜぇ!透かした言葉をぉ!
太一「………今日は、風が騒がしいな」
いやぁ、何か死にたくなってきた…なんだこりゃ。恥ずかしいとかそういうのではなく…何か、こう…死にたい…
太一「(やっちまったか…?)」
恐る恐るちらりと振り返る。
アリス「ムフフフフっ…///(フルフル…」
いや嬉しそうだ…!?ちょっと精神が崩壊しかけたが行ったぞぉ!
太一「(さぁ…!どう返す…!?)」
俺は前を向いたまま横目で少女の出方を伺う。
少女は静かに立ち上がると風に髪を棚引かせながら言った。
アリス「でも少し、この風、泣いています」
ウェヘヘヘヘっ!面白ぇはこの人っ(汗)
アリス「………」
立ち上がった少女は無言で俺のすぐ後ろに立った。
いやぁ、ごめんなさい、勘弁してくれませんか…?もう…限界です…
まぁ、正直ね?後ろに座られた時は少し嬉しかったんですわ。でもねぇ、俺には空想力ってやつが無いみたいでどうやらこの空間に耐えられないようです。
ですからぁ、既に呼ばせてもらってます。二人の救助隊を。
少女に見えないようにしながらメールを送信。
太一「(来い!戦士達よ!この結界を破壊しておくれぇ!)」
すると、ものの数分もしない内に友人Aが川原の上の方へ姿を現した。
太一「(来た!…速いな…!)」
早く助けてくれ!と内心焦りながら早いところこのロマンチック空間から引っ張り上げて欲しいと思っていたところ、コイツ、予想外の一言。
タイキ「…行くぞ太一、どうやら風が街に良くないものを運んできてしまったようだ」
何で今日に限ってそんなテンション高いんだお前はぁっ!
タイキ「ぁ……」
アリス「………」
タイキ、そこでやっと少女の存在に気付く。
タイキ「…………っ///」カァっ…!///
カァっ…!/// じゃねぇよっ!死ねっ!
アリス「ムフフフフッ…!///」
太一「(めっちゃ嬉しそうっ!!?)」
もぉー嫌だっ!俺を現実に帰してくださぁいっ!(泣)
河原で一人黄昏る少年に声を掛けたいという願望はもう十分叶っただろう?この空間をぶち抜いて帰らせてもらうよ。現実的な一言でなっ!
俺は立ち上がり少女の横を通り抜けながら一言。
太一「急ごう、風が止む前に…」
何を言ってんだ俺はぁっ…!もういいよ!!行けるところまで行ってやるよチキショウっ!!! ←やけくそ
「待て!」
太一「(ぬっ…!?)」
貴様はもう一人の救助隊、マサル君…!
大「………おいヤベェって!そこのコンビニ!ポテト半額だってよっ!?おい行こうぜっ!!?」
太一「(空気読めよお前っ!!!)」
アリス「フンッ!!」
大「ぐふぁあっ!!?」
いや…!読んでるけどぉ…!
太一「ん?」
マサルをボッコボコにしている最中の少女が投げたカバン、蓋が空いて何やら分厚い原稿のようなものが姿を見せる。
太一「なんだこりゃ」
こちらには全く気付いていない少女に構わずその原稿を手に取りカサリとページをめくる。
太一「ほぉ、自作小説ですか」
アリス「ほわぁあぁッ!!?///」
マサルを痛めつける手を止めて可笑しな声を上げる少女。かさりかさりと読み進めて、俺は理解した。
太一「成る程、少年と少女が川原で出会うラブストーリーか」
またタイキがカバンからもう一つ原稿を取り出して目を通す。
タイキ「主人公は風の能力使い…」
太一「びっくりするほど今の状況と一致してやがる。すごい偶然だ」
すなわちこの人は、自分のあこがれを実現させたくて俺を主人公に見立てて隣に座ったということか。
ま、別にそれはいいんですけど。ただ問題は、この主人公特徴的な設定をしてやがる。これはつまりぃ…
太一「俺が孤独で根暗なオタクに見えたってことかァー!」
タイキ「ははっ、別にいいじゃないか」
それから一つ、俺は心に決めた。
もう、一人で川原で本なんか読むかっ!!