ちょこっと図書室

□ある昼下がりの森で
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大「…あれ?」

嫌になる程の冬の寒さが続いてた今日この頃、その日はすげぇ天気も良くて暖かかった。そんで俺とアグモンは屋根の上登って体いっぱいに日の光を浴びて日光浴してたわけだが…

大「何処だここ?」

目を覚ました時には隣に寝てたはずのアグモンは居なくて、草木の生い茂る森ん中のコケの生えた木に背中預けて眠ってんだ。
キョロキョロと周りを見渡してみるが、やっぱり知らないところだ。俺なんでこんなところに居るんだろう?訳が分からずいつもの癖で頭を掻こうとして何やら柔らかいものが手に触れた。

大「ん?」

俺はもう一度確認の為に自分の頭に手を伸ばしてソレを触った。柔らかくて気持ちのいい毛の生えた何か。それが二つ頭から生えてるみたいだった。軽く引っ張ってみたけど取れなくて、思いっきり引っ張ってみたら…痛かった。
頭の上だからどうなってんのか自分じゃ見えなくて、気になるからどっか湖か川的なものがないか探そうと思って立ち上がろうと地面に手を着いた時、頭の上にあるものと同じような触り心地のものに触れた。

大「何だこれ?」

それはどうやら何かのしっぽの様だった。たぶん犬のしっぽ。何でこんなとこに犬のしっぽ?もしかしてケツの下に犬を敷いちまってるんじゃないかと思って慌てて立ち上がって振り向いたが、そこには犬も何もいなかった。じゃあ今のしっぽは何だろうと考えていると、不意に自分の尻に何か違和感を覚えた。
まさか…と思ってそこに手を伸ばすとそれは簡単に掴めた。ふさふさした茶色い毛並みのしっぽ。何となく撫でてみると、何かぞわっと変な感じがした。
俺は夢中で駆け出して、湖を発見すると水に自分の顔を映して絶句した。

大「な…何じゃこりゃあああああああああああああああああああああああああああ!!!!?」

水に映った自分の頭にはそれは可愛らしい茶色の犬耳がピンと立っていた。
なにこれ…何これ? 何コレ!? ナニコレ!!?

大「マジで訳分かんねぇ…何で犬の耳としっぽ…」

俺がションボリとすると頭の上の耳もしょんぼり垂れ下がって、しっぽも心無しか元気無いみたいにだらんとなった。どうやら俺の気分で何かしら反応するらしい。

大「…動くかな…」

何となく上の耳に意識を集中してみると耳はピコピコと動き出した。次はしっぽに集中してみた。後ろを振り向いて見てみると、だらんと項垂れていたしっぽは上向きになり、更に動くように意識してみるとパタパタと左右に振れだした。
突然自分に生えたしっぽがゆらゆらと揺れているのを見ていると何だか楽しくなってきた。

大「うん、そうだな。じっとしてても暇なだけだし森ん中歩いてみよう。誰か知ってる奴に会えるかもしれないし、帰る方法も見つかるだろ。何か強い奴にも会えるかもしれないな!」

さすが俺。こんな時でもポジティブシンキング。
足元に落ちてた枝拾って指で遊びながらふさふさしたしっぽを振り回し森ん中をズンズン歩いていく。時々木の上とか影に隠れてるデジモン達をチラチラと見かけたりするから、きっとここはデジタルワールドなんだろう。そっか、デジタルワールドなら犬耳としっぽがいきなり生えてきても不思議じゃないか。デジタルワールド何でもアリだもんな。うん。

大「お?あれは…」

前方にピンク掛かった頭の見慣れた女を発見。後ろ向いてるから俺には気づいてないらしい。ここで俺は自分の意思に従ってそろーりそろーりと静かにそいつの後ろに近寄った。ニシシッと心ん中で笑いながら勢い良くそいつの肩に手を置いて脅かしてやった。

大「ワッ!!」

淑乃「きゃあっ!!?」

あっはっは!ビビったビビった!淑乃は本気で驚いたらしく若干涙目で俺を睨んできた。お前に睨まれたって全然怖かないやーい。
腹抱えて笑ってた俺だが、ふと淑乃の頭と背中に見慣れない何かが生えているのが見えた。俺が不思議そうにじーっと眺めてると淑乃は機嫌悪そうに言った。

淑乃「何見てんのよ…」

大「その頭と背中に生えてんの何?」

淑乃「は?」

淑乃は訳が分からないと言う顔で俺を見てきた。いやいや、俺の方が訳分かんねぇよ。
淑乃の頭にはぴょこんと白い触角みたいなものが2本生えてて、背中からは薄い透明の羽みたいなもんが生えてて日の光が当たってキラキラ光ってた。そして服装もひらひらピンクのレースが付いた可愛らしい服を着てた。

淑乃「何って、何が?」

大「いや、だからその触角と羽何だ?コスプレ?」

淑乃「アンタ…もとから頭は弱い方だとは知ってたけど、大丈夫?」

大「はぁ?」

淑乃「私は花の、バラの妖精なんだから当たり前でしょ?マサルわんこ」

大「わんこ言うな!」

淑乃「犬耳としっぽ生えてんだからわんこ以外の何者でもないわよ」

大「お前は妖精っつうより虫みたいd「それ以上言ったら刺すわよ?」」

淑乃は何処からか痛そうなトゲのいっぱい付いたいばらのムチを取り出してニッコリと俺に微笑んだ。それはやめとけ淑乃、そんなんで打たれたらマジで洒落にならん。

大「俺家の屋根で昼寝してて目覚めたらこの森で寝てたんだ。お前帰り方知らねぇか?」

淑乃「アンタいつもテキトーなとこで寝泊まりしてんだから家なんて無いでしょ?」

大「え?」

淑乃「…はい?」

どういう事なのか分からない俺は目をパチパチと瞬かせ、目の前の淑乃も同じようにおっきな目をパチパチと瞬かせた後突然俺の手を引いて歩き出した。

大「おい何処行くんだよ?」

淑乃「医者よ医者」

大「はぁ!?何で医者なんか!?」

淑乃「どうせ良く確認もせずに変なものでも食べたんでしょう!?グダグダ言ってないで行くわよ!!」

俺はズルズルと引きずられるようにして淑乃にこの森の医者だというものの所へ連行された。医者って…まさかでっかい注射いきなりぶっ刺したりとかしねぇよな…?
その情景を考えた俺は顔面蒼白になりながらそれだけはやめて欲しいと、別に信じてもいない神様仏様に手合わせて懇願した。耳は両方パタンと閉じた状態で、しっぽは何かに怯えたように股の下に隠れてる。べ、別に俺は注射怖がってるとかじゃねぇからな…!

淑乃「トーマぁー!居るー!?ちょっとマサルがおかしいのよ!いつもおかしいけど今日は一段とおかしいの!ちょっと見てくれない!?」

すっげぇ大きな木にドアとか窓とかが付いてる、どうやらこれは家になってるらしい。そこに向かって淑乃は大声で家の住人と用件を叫んだ。
それにしてもさっきから人のことおかしいおかしいって失礼だろと、ぼそっと呟いたが淑乃には聞こえなかったらしい。いや、聞こえてて無視してるにうまい棒三本。
数分して、家の中からは淑乃が呼んだ通りトーマが現れたんだが、見た目が何ともシュールだった。

大「ぶっ…!!?」

俺は咄嗟に自分の口を塞いだ。トーマ…なんだその格好!(笑)
目の前のトーマの格好を俺が事細かく教えてやろう。教科書とかで見たローマ人が着てるみたいな白い布を着てて、背中からはそれは綺麗で真っ白な翼が生えていて、そして極めつけは頭の上…金色の輪っかが頭の上で浮いてんだ。その格好は所謂…天使(笑)

大「ぶはっ!ト、トーマお前…!何て格好してんだよ!アハハハハハッ!!!」

惜しい!本当に惜しい!天使と言やぁ金髪青目はいいとして髪質は普通クリンクリンの天然パーマだろ!(笑) そして格好は全裸だ!何で服着てんだよ!脱げ!(激笑)

指差して大笑いしてる俺を冷ややかな目で見るトーマと呆れたような視線を向ける淑乃。

トーマ「笑いキノコでも食べたんですか?」

淑乃「さぁ?とにかく変だって事しか分からないわ。治せる?」

トーマ「すいません淑乃さん、馬鹿につける薬は扱っていないので」

大「誰が馬鹿だコラァ!!?」

トーマ「まぁ一応診断してやろう。入り給え」

トーマは家の扉を開いて俺と淑乃を中にあげた。俺はベットに寝かされて体温計で熱計ったり聴診器で胸の音聴かれたりした。にしてもトーマ、さっきからその上から目線やめろってのー。学歴違っても歳は同じだからな!人間平仮名カタカナと足し算引き算出来りゃ何も支障なく暮らせんだよ!と、口に出さず俺は頭の中で叫んだ。

トーマ「心の中で呟いているつもりなのかも知れないが、声に出てるぞ」

大「!?」

淑乃「さっきから聞こえてたけど、アンタ気付いてなかったのね…」

なん…だと?俺のこの呟きもまさか聞こえてるっていうのか…!?

トーマ「ああ。君疲れてるんじゃないのか?少し横になるといい。そしてそのまま目を覚まさなければいい」

大「おいトンマ遠回しに俺にs「冗談だ」………」

淑乃「それじゃ私は帰ろうかしら」

トーマ「あ、淑乃さん。昨日いい茶葉が入ったんで紅茶でも如何ですか?リリーナが作って持ってきてくれたお茶菓子もありますからゆっくりしてってください」

淑乃「あらそう?それじゃお言葉に甘えて」

俺がベットに放置されている横で淑乃はテーブルに着きトーマは二人分のティーカップと茶菓子を用意しだした。

大「ああっ!ズリぃぞお前ら!俺の分も用意しろよ!」

トーマ「病人は大人しく寝ていたまえ」

淑乃「ほらお医者様がそう言ってるんだから静かにおネンネしてなさいよ」

大「解せん!それに俺は病人じゃねぇ!!」

トーマ「全く君って奴は…子供みたいに駄々をこねるな」

何故かトーマと淑乃に呆れられながらも、俺は何とか自分の分の茶と菓子を用意してもらう事が出来た。

大「…苦げぇ」

しかも渋い。茶用意してもらって言うのも何だが、俺にはこれがどうして美味いと感じられるのか全く理解できない。いい匂いはするけど、匂いと違って全然甘くねぇし美味しくもない…

トーマ「あ、君の分のカップにシュガーとミルクを入れるのを忘れていた」

大「おい!絶対わざとだろ!?」

淑乃「まぁ入れなくても普通飲めるんだけど、アンタはおこちゃまだから無理よねぇ?」

大「なっ…!ガキ扱いすんじゃねぇよ!こ、これくらい何も入れなくてもなぁ…!」

淑乃に子供扱いされた俺はムッとして、少し躊躇したがもう一度カップに口をつけた。

大「………」

淑乃「………」

トーマ「………」

大「………」

淑乃「………」

トーマ「…貸たまえ」

大「お願いします…」

マズイ茶は砂糖とミルクが入ったことですごく美味い茶に変身した。用意された美味い茶菓子も食べながら上機嫌の俺、尻についてるしっぽはブンブンと左右に振れてる。

淑乃「それ可愛いわね」

大「うっ…!?ゲホッ!ゲホッ!」

突然しっぽを掴まれた俺は思わず口に含んでいた茶を吹き出しそうになるのを堪えて飲み込んでむせた。
苦しくて涙目になってる俺をニヤニヤと見てる淑乃と俺のしっぽを興味深そうに見詰めてるトーマ。

大「おまっ…!淑乃!勝手に人のしっぽ触んな!」

淑乃「目の前でゆらゆらしてたから、つい」

トーマ「………」

大「ぅあっ…!し、しっぽ撫でんなトンマ…!」

トーマ「ふむ、手触りがいいな」

そう言ってまた伸びてくるトーマの手から俺はしっぽを抱きしめて死守した。おい何残念そうな顔してんだこのわんこマニア!俺は犬じゃねぇぞ!!?

それから俺は三人でのんびり茶飲んで菓子食いながら特に意味もなくくっちゃべって時々二人から伸びてくる魔の手からしっぽを死守したりしている内に眠くなってきて、欠伸を一つしてテーブルに突っ伏し寝息を立て始めた。






大「う…ん……ふ、ふぁ〜…ありゃ?」
目を覚ました俺は体を起こして背筋を伸ばすとぼーっと目の前の景色を寝起きでふわふわしてる頭の中で理解しようとした。普通の家の屋根が自分より下の方にあるのが見えて、遠くには港が見える。そうだ、ここ家の屋根の上だ。隣では子分の黄色いカエルが大口開けてヨダレ垂らしてだらしない顔して爆睡してる。

大「…夢か。変な夢見たなぁ…」

もう一回寝直そうかと思って頭を屋根に置いたとき、頭の下に何かあるのを感じてそれを手に取った。

大「ん?あ…」

それは知香が小さい時読んでた絵本で、犬と森の仲間達が仲良くお茶会なんかしてるっていう内容のものだった。
ああ、そういや寝る前にアグモンがこれ持ってきて読んでくれって言われて読んでやったんだっけ。頼み込んできた本人は半分も読まねぇ内に寝ちまったが。そんで俺これを枕にして寝たんだった。

大「………ははっ…」

枕の下に夢に見たいものを敷いて寝るとその夢が見れるって聞いたことあるけど、直接枕にすんのもアリなのか。

俺はまた本を枕にして眠りについた。犬になるのも面白い。天使と花の妖精も思い出したが悪くない。
風はひやっと冷たいけれどニコニコ笑うお天道さんにポカポカ優しく照らされて黄色いカエルの隣で寝転び体いっぱい日を浴びる。

起きたら一緒に遊ぼうな。


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