ちょこっと図書室
□待っててね
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「テイルモン、隣良い?」
子供達を見送ったその夜、ベランダで一人月を眺めているテイルモンの姿を見付けヒカリは静かに隣へ腰を下ろした。
「月、綺麗だね。あの子達も見てるのかな」
「そうね…」
雲一つない夏の夜空には真ん丸な月が浮かび、夜の東京に、ベランダで並んで座っているヒカリとテイルモンに優しい光を降り注いでいる。そんな月をぼんやりと眺めているテイルモン、見送りの後からぼーっとしていて、何やら考え事をしているようだった。
「…ねぇ、ヒカリ…」
何を考えているのかと聞こうとしたヒカリよりも先にテイルモンが口を開いた。
「なぁに?」
ヒカリは視線を月に向けたまま返事をする。
「……………ううん、やっぱり何でもない」
何かを伝えようとしたテイルモンだったが、少し間を置いたあと静かに首を横に振りまた空に浮かぶ月を見上げた。
そんなテイルモンの手にヒカリが自分の手を重ねた。
「分かってるよ、テイルモン…今あなたの思っていること、ちゃんと分かってる…」
「ヒカリ…私……」
「あの事件から沢山の時間が過ぎたわ…“彼”が私達を助けて消えたあの日から沢山…」
「…うん…」
まだ幼かったヒカリとテイルモンへ向けられた攻撃から、身を挺して守ってくれた“彼”は静かに笑ってその命を終えた。その数年後、魂だけになった状態でその時の選ばれし子供たちに大事なことを伝え、役目を終えた“彼”夏の晴れ晴れとした青い空の中に溶けるように消えていった。
「…アイツはこんな私の傍に何も言わずに居てくれていた。ヴァンデモンの元に仕え始めた時も、逃げることなく一緒に付いて来てくれた。私はただ一杯の水を与えただけなのに…私は…アイツに何かしてあげれたのかな…?」
そう自分に問いかけるテイルモンの目に映る月はゆらゆらと揺れている。
「行きたいんでしょう?彼のところへ…」
ヒカリの問いに静かに頷くテイルモン。手でゴシゴシと目元を拭い光の方を向く。
「私は…!私は……」
拭った目元からまた雫が流れて、コンクリートの上に落ちて弾けた。
「……本当は…ずっと前から考えてたの…でも…私はヒカリのパートナーだから。ヒカリの傍を離れるなんて…」
ずっと抱いていた思いを告げたテイルモンへ、ヒカリは優しく微笑むとテイルモンの手にはめているグローブを外した。その手には今も消えない傷が残っていて、それをそっとなぞる様に撫でるとヒカリは言った。
「沢山の友達が出来て、夢だった保育士になって、素敵な旦那様と子供と幸せな家庭を築いて…これ以上の幸せはきっとないわ。それも全部、あなたが私に与えてくれたものよ、テイルモン。確かにあなたが居なくなるのは寂しいわ…でもね、私だってあなたとずっと一緒に戦ってきて強くなったのよ?もう一人でも大丈夫。だから…」
そっとテイルモンを抱きしめながらヒカリは言った。
「次はあなたが幸せになる番でしょう?…行ってらっしゃい、テイルモン…」
「ヒカリ………ありがとう…」
長年の思いが綺麗な雫となってポロポロと落ちていき、抱きしめてくれているヒカリの服を濡らした。
「何年、何十年経ったって、絶対に見付けてみせる…」
「ええ、私も待ってる…ずっと、ずっと待ってるわ。テイルモン…」
「ヒカリ…私、必ずアイツを連れて帰ってくるから…」
きっと…きっとまた会える…そう信じて、白猫一匹“彼”を探して旅に出た。
待っててね、必ず貴方を見つけてみせる
私達を待っててくれる人がいる。だから…早くあの子のところへ帰ろう…?ウィザーモン…