中編
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次の日もマサキくんにお弁当を作ろうとしたら「もう少し大人しいのにしてくれ」と頼まれたのでからあげとか男の子の好きそうなものをいれておいた。これでよし。
「なまえ!おはよう!」
「なまえー!おはよー!」
「天馬君、信助君、おはようございます」
教室に到着するとサッカー部コンビが元気よく挨拶をしてくれた。なにこの二人可愛い和む。
この二人は昨日も校舎内を案内してくれたりと何かと私に手練手管してくれた。ありがたいの言葉に尽きるわ…!うっかりマサキくんと同居してることをばらそうとしてしまったら物凄い形相で睨まれたりもしたけど昨日は充実した一日だった。マサキくんは私と一週間同居していることをどうしてもばれたくないらしい。それはなんとなく私もわかるので、お互いばれないように気を付けよう、ということになった。
「なまえ!サッカー部に入らない?」
「へっ?サッカー部?」
天馬君に突然誘われてびっくりする。なんで私がサッカー部に?そう思ってきょとんとしていると、横からマサキくんが「無理無理」と言った。
「マネージャーだとしても、こいつにそんな仕事務まらねえって」
「なにい…っマサキくんちょっと聞き捨てならないですよ!」
「言ってろ。朝の六時と夜の六時で目覚ましかけ間違えて大慌てで弁当作ってたのはどこのどいつだ」
「うっ…!」
それはそうだけどさー!と二人でぎゃあぎゃあ騒いでいると、ぽかんとした顔をした天馬君と信助君が「なんで狩屋がそんなこと知ってるの?」と訊いた。…あ。
「あっえっと…!さ、さっき廊下で会ったときそういう話したんです!ねっマサキ君!」
「そ、そうそう!それだけだよ!」
二人で慌てて言い訳をすると、素直な天馬君たちは「そっかぁ」と言って納得してくれた。ううう!心が痛みます!
「で、なまえ!マネージャーやらない?なまえがいてくれたらうれしいんだけどなぁ!」
「えー…でも、私、ドジだしおっちょこちょいですし…」
「大丈夫だよ!今日見学においでよ!ねっ?」
ちら、とマサキくんのほうを見ると、「勝手にすれば?」という目をしていた。
「うーん…サッカー部かぁ」
「ていうかなまえ、元木戸川清修ならさ、貴志部っていう人とかいなかった?」
「あっうんいたよ!凄いかっこよくてねー、女の子に大人気だった」
「俺たち、その人と戦ったんだよ!」
「ホーリーロードだっけ?凄いねーみんな!かっこいいよ」
きゃいきゃい騒いでいると授業開始のベルが鳴った。天馬君は「じゃあそういうことで、放課後サッカー部行こうね!」と言い残して自分の席に戻っていった。ううーん、でもちょっと楽しそうかも。
放課後。天馬君たちにつれられてやってきたのはサッカー塔とかいう大きな建物。うおおお…サッカー部の待遇の良さはんぱない…!さすが名門校だなあ。
自動ドアをくぐると中には既にたくさんの部員が集まっていた。しまった…上がり症の私がこんな大勢の人の前でうまく話せるはずがない!
「天馬、そいつは誰だ?」
オレンジ色のバンダナをした男の人が天馬君に尋ねる。天馬君は「転校生のみょうじなまえです!」と答えて、必然的に私がしゃべるみたいな場面になった。うわああああ落ち着け私。ひっひっふーだ!
「それじゃなんか生まれちまうだろうが」
マサキ君につっこまれた。ていうか口に出てたの私!?見るとサッカー部のみなさんはくすくす笑ってるしうわあああ恥ずかしい!!
「え、ええと…一年の、みょうじなまえです…その、サッカーは初心者だけど、よろしくお願いします…」
ぺこっ、と頭を下げると、昨日の教室と同じように拍手に包まれた。不意に「お前は相変わらずだな」という声が聞こえ、えっ?と顔を上げると、そこには昨日のピンク髪のおさげの先輩がいた。
「き…霧野先輩!」
「よう」
「サッカー部だったんですか!」
「まあな。昨日はあの後、大丈夫だったか?」
「はい!おかげさまで!」
嬉しい再開に喜びを全開にしていると、天馬くんが不思議そうに「二人は知り合いなの?」と尋ねてきた。
「うん!昨日死にかけてるところを助けてもらったの!」
「ええ!?」
驚愕する天馬君。そんな彼をよそに、オレンジのバンダナの男の人が「よーし、それじゃあ練習を開始するぞ!」と声をかけた。
サッカー部の練習はとてもハードだった。基礎トレーニングから始まりボールさばきの練習、瞬発力を鍛える練習にそれぞれのポジションに合わせた練習。それが終わると紅白戦。
「なまえちゃん、これお願いね」
「あっはい!」
「ふふ、一緒にやろう」
山菜先輩というおっとりしていて可愛らしい先輩に教えられ、ドリンクを作る。次第に同じクラスの空野さんや、一つ年上の瀬戸先輩も集まってきて、みんなで作業をした。
「なまえはさ、霧野先輩と仲いいの?」
「ええ!?そ、空野さん、それはどうしてですか?」
「葵、でいいよ。だって、転校早々あんなにしたしげなんだもん」
「そりゃ、昨日助けられたし…」
「なんだぁ、お前、あんなひょろっこいのがいいのか?」
「瀬戸先輩、ひょろっこいって…」
「水鳥ちゃんは錦くんみたいなのがいいんだもんね」
「なっ!?茜、てめぇ…っ!あ、おい写真撮るなよ!」
「ふふ、かわいい」
なんて。ガールズトークに花を咲かせていると、後ろから頭を叩かれた。結構思い切り。
「いた…っ!?なに!?」
「ドリンクよこせ」
「普通に言えないんですか、マサキくん!」
この子時間がたつにつれて私の扱いが乱暴になってきてるぞ…!私が渋々ドリンクをさしだすと、マサキくんはそれを飲み干した。
「汗だくですね」
「まあ、走ったからな。あっちー」
「わっ!?ちょっ、やめてくださいよー!」
低体温な私は首元やら手先やら冷たい。そのためマサキくんが私の首元に手をおいて涼もうとしだした。それふつう暖をとるときにするんじゃないんですかね…!
「ん。じゃーな、しっかり仕事しろよ」
「わかってますよ!マサキくんこそ、しっかりディフェンスしてください!」
「わかってるよ」
にっ、と得意げに笑って走り去るマサキくん。霧野先輩に「勝手に休憩するな!」と怒られていた。まったくもー、とその背中をなんとなく見つめてくすりと笑い、仕事に戻ろうとすると、六つの瞳が興味津々にこちらに向けられていた。
「ひいっ!?な、なんですか!?」
「なまえ狩屋とそういう仲だったんだー!」
「へっ!?そういう仲!?」
「とぼけんじゃねえぜ!あんなに仲よさそうにしやがって、このこのー!」
「わっちょっと先輩ーっ!」
「ふふ、撮っちゃった」
はい、と差し出される山菜先輩のカメラには、楽しそうに笑いながら私の首元に手を伸ばすマサキくんと、嫌がって抵抗する私の姿が映っていた。
「いじめの現場ですね!」
「なまえちゃんも狩屋くんも、楽しそう」
「どこがですか!?」
その後は散々三人に質問攻めにされた。ま、マサキくん。私とあなたの関係、一週間の同居がばれるより前に、変な風に誤解されちゃいそうですよ!?
三日目
(マネージャーたちに半強制的にサッカー部入部させられました)