稲妻11
□13.雪原のプリンス!
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「北海道にある白恋中に、吹雪士郎という凄腕のストライカーがいるそうよ」
「蹴球なのに凄腕ですか」
「柊木さん、少し黙って」
「…はい」
というわけで。
北海道の道を走るイナズマキャラバン。奈良から北海道って遠征すぎない…?
私の隣でうなだれるようにして座る一郎太は、やはり浮かない顔をしている。心配になって声をかけても生返事ばかり。
「ゆずは!ポッキーたべるか?」
「塔子ちゃん!いただきますすすす!」
塔子ちゃんにお菓子をもらってかりかり食べていると、秋ちゃんや春奈ちゃんが暖かい目で見てきた。
「な、なに?二人とも」
「ゆずはちゃんって、やっぱり…」
「小動物みたいです…!」
なんと!聞き捨てならんぞ二人とも!私は小動物じゃないぞと言おうとすると、不意に窓の外に視線を持っていかれた。
「のわあああ!?」
「えっ!?どうしたゆずは!?」
私の大きな声に驚いたのか、停車するキャラバン。円堂くんが不思議そうな顔でこちらを見つめてくる。
「ひ、人!」
「え!?ま、まさかこんな雪山に人なんて…」
「私、ちょっと行ってくる!」
「あっおいゆずは!」
急いでキャラバンから降りると、肩や頭にすっかり雪の積もった色白で細見の男の子が身を抱きしめて震えていた。
「君!大丈夫!?早く中に入って!」
私がぐいっ!と彼の手を引っ張ると、がちがちと歯を鳴らしながら「あああありがとう」と礼を言う男の子。
マネージャーたちが急いで毛布を用意したり暖かいココアをいれてあげたりとしているうちに、その男の子の真っ白な肌は段々と血色よく色づいてきた。
「本当に助かったよ…ありがとう」
「いえいえ!よかったね、凍死しなくて」
「あはは、そうだよね」
のんびりと笑う少年に、のんびりと笑い返す。なんだかマイペースな子だなあ。しかもかなりの美少年。
と、その時。がたん!とキャラバンが大きく揺れた。何事かと驚いていると、窓の外には大きな熊…
「きゃあああ!」
可愛らしい悲鳴をあげるマネージャーたちと真逆で咄嗟にバットをケースから出す私。いいいい今戦闘スキルと武器があるのはきっと私だけだやらなきゃ頑張らなきゃ!
震える手でバットを強く握っていると、先程の男の子が「大丈夫、ちょっと待ってて」と私の頭を撫でて、バスの外へ出て行った。
危ないよ!警告しようとしたが、途端に外が静かになった。
「もう大丈夫」
かと思ったら先程の男の子がサッカーボールを片手に戻ってきて、やはりのんびりと笑った。
「…まさか今の、お前が…?」
円堂くんの問い掛けに、無害そうな純度100パーセントの笑顔を向けて首を傾げる男の子。
「…まさか、な」
円堂くんの一言に「だよなー」と笑い声があがり、再び走り出すイナズマキャラバン。
だけど私だけは違った。
「怪我はない?」
「…熊殺しの、吹雪?」
雪原のプリンス!
(私が問い掛けたのと同時に)
(キャラバンが停車して、名前も知らない彼は柔らかい笑みを残して降りて行った)