機動戦士ガンダムSEED Destiny ザフト編(完)

□遺伝子
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「ロゴス、か……」

 議長に呼ばれ食事を共にした。

 そのときに聞かされたのは、あまり心地良くない話。

 戦争中なんて、いい話は聞かない。

 だが、聞かされたのは今まで目をそむけていた事実で。

 いい気分ではなかった。

「知ってはいたけどね」

 豪華な絨毯の敷かれた廊下で、僕は呟いた。

 ロゴスの存在を知ってはいた。

 だが、それに目を向けることはしなかった。

 軍事産業を職としている人間たちがいても、それは自分たちのアシストとしてのもので、それに利用されているなんて考えたくもなかったから。


 利益。
 戦争。
 消費。



「やあ、ミネルバに戻ってきてくれて、うれしいよ」

「議長」

 プラントへ帰るところか、現れた議長に敬礼する。

「どうだね? パーシャル・デスティニーのほうは」

「驚きました。あの設計も、発想も。とても扱いやすいです」

 僕の返事に議長は微笑む。

 後ろにいるグラディス艦長は、少々難しい顔をしていた。

 あんな話の後だ。

 冴えない気分なのも当たり前か。

「君とも少し、話がしたかった。運命について、ね」

 議長の言葉に、僕は首をかしげる。

 抽象的な言葉を好む議長との会話は、宙に浮かんでいる心地になる。

 悪いものではないが、実るものが少なく感じて、少々疲れる。

「私は研究中、遺伝子に名前をつけることが多い。カテゴリを解りやすくするための、その場限りのものだが、これが結構的を射ていてね」

 遺伝子にはその人間の本能的な部分の性質までわかるという。

 人間の情報が集まっているものだ。それくらい解るのだろう。

 そして現在の科学において、それを人間が知ることも可能となってきた。

 シンがインパルスのパイロットとして選ばれたのも、適正があったからだという。

 そして、議長が言うには、アマルフィ氏の推薦より、遺伝子がパーシャルを僕に与えた理由だそうだ。

「アマルフィ氏の薦めで君のデータを見てね。実に興味深かった。君がなぜ若くして、ザフトに入りプラントを守ってくれる道を選んだか、それがいかに正しい選択であったかがわかった。役割を間違えてしまう人々が多い中で、君は正しい道を選んだんだ」

「正しい、道?」

 家族を失って、復讐のためにザフトに身を投じた。

 それが、正しい道?

 疑問はあっても、遺伝子がそれを正しいというのなら、その役割は僕にとって最善の道だったということ?

「ああ、本当に、いいことだよ。君にとっても、我々にとっても。ミネルバに乗ってからも、どうかその力を存分に発揮してくれたまえ」

「は」

 去る議長に、敬礼して別れの代わりにする。

 すれ違い様、議長は僕に笑みかけた。



「君の遺伝子の名だがね」



 耳をなでるような声で。
 一瞬のこと。

 グラディス艦長は気づかなかった。



「『破壊』と呼ぶにふさわしい」



 聞こえるか否かの大きさで。

 それは告げられた。

 静かな廊下に議長は去りゆき、僕は一人のこされた。



 遺伝子。
 破壊。
 部分的に欠落した、運命……。
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