機動戦士ガンダムSEED Destiny ザフト編(完)

□ユニウス・セブン
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「別に本気で言ってたわけじゃないさ! ヨウランも!」

 シンだった。

「そんなことも分かんないのかよ!? あんたは!」

 突然の言葉に、代表は目を見張る。

「何だと!?」

「カガリ」

 アスランの制止にも耳を貸さない。

 僕はどこか、遠くで出来事を見ていた。

 シンの真意を、確かめたかった。

「シン、言葉に気をつけろ」

「あーそうでしたね、この人偉いんでした。オーブの代表でしたもんね!」

「お前!」

「やめろカガリ」

「アスラン……」

 やっと、アスランの声を聞く余裕ができたのか、代表は悔しそうに口をつぐむ。

 そして、それまでカガリを止める一方だったアスランが前に出た。

「きみはだいぶオーブが嫌いなようだな。先の戦争で家族を亡くしたと言っていたが、個人的感情だけで代表を侮辱するようなら、ただでは置かないぞ」

「……」

 アスランの威圧的な言葉に圧倒されながらも、シンは拳を握り締めて口を開いた。

「……失ったんじゃない。俺の家族はアスハに……そいつの親父に殺されたんだ!」

「っ!」

 代表が息を呑んだのが分かった。

 まずい。止めなければならない。

 でも、体が動かなかった。

 家族を失ったままの、何も見えない状態を、知っていたから。

「国を信じて、あんたたちの理想ってのを信じて……。最後の最後にアンタたちの選んだ道のせいで、オノゴロ島で殺された!」

 オノゴロと聞いて、代表にも覚えがあったのだろう。

 苦しそうな表情が、さらに濃くなった。

「だから俺はもうオーブなんて国は信じない! アンタたちの言う理想も信じない!!」

 シンの言葉に、アスランも口をはさまなかった。

 ただ顔を背け、どこともしれない場所を見ている。

「この国の正義を貫くって……そんな奇麗事並べて……」

 僕は目を閉じて、シンに謝った。

 ここに居合わせたなら、僕がやるしかないんだ。

「アンタ達はあのとき、自分たちの言葉で誰が死ぬことになるか、ちゃんと考えたのかよ!!?」

「シン」

 名前を呼んで、振り向いたシンを殴った。

「っ!」

 手加減はしたが、突然のことに驚いたのか、シンは床に膝をつく。

「申し訳ありません」

 代表へ頭を下げたが、きっと効果はないだろう。

 シンの話を最後まで続けさせたのも、きっとわざとだと、アスランが見抜いている。

「シンには私からきつく言っておきますので、どうか」

 暗に、ここから立ち退いてくれと示した。

 シンにも代表にも、同じ空間にいるのはよくない。

 そんな様子を見て取ったのか、アスランが呆然としている代表の肩を抱いて、促した。

 それを見送り、シンの前まで静かに歩く。

「シン」

 手を差し出したが、払われた。

 当然だ。

 これが上官の厳しいところ。

「お説教ですか」

 わざと敬語で言ってくるところが、胸に痛い。

「そんなことしないよ。ただ、シンが苦しそうだったから」

「え?」

「僕の家族も、ユニウス・セブンで殺されたから」

 その場が静まった。

 ただ、伝わればいいと思った。

 憎む気持ちだけでは、何も見えないと。

「だから、ごめんね」

 殴ってから言う台詞ではないが、本音と建前を守って、僕はシンにつくことに決めた。

 うつむいて唇を噛むシンの横に、あとで飲もうとしていた開いていないジュースを置いてレストルームを出て行く。


 苦しい。

 感情の高ぶりのためか。
 己の欠陥のためか。
 分からなかった。


 ただ、オーブの代表もきっと、父親を亡くしている。

 それを思うと、ただ、どこかが苦しかった。
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