機動戦士ガンダムSEED Destiny ザフト編(完)

□フリーダムとストライク
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 助ける気なんてなかったのに、足元にあった石を二つ、男二人に投げつけた。

 うめき声のあとには静寂。はなく、ロボットの陽気な声。

「あ………」

 ラクス・クラインと男が、こちらを見る。

 もう隠れるつもりもないので、砂浜へ飛び降りた。

「あの」

「気絶させただけですよ」

 僕は男二人に近づき、容態を確認する。

 すぐ目は覚ますだろうが、いけない薬のせいでもう精神は崩壊し始めているだろう。

「ありがとうございます」

 ラクス・クラインが微笑んだ。

 それは己を助けたことへでも、相手を殺さなかったことへでもとれて、妙な気分になった。

「面倒だから、警察に連絡したほうがいい」

 ラクス・クラインの言葉は無視して、つづける。

「よかったら通報はしとくよ、面倒なことになるでしょ? あなたが」

 僕は知らず男、フリーダムのパイロットを睨みつけていた。

「え……。はい」

 よく分からないという感じで返答する男は、まだ青年で、幼い。

 アスランくらいだろうか。

「フリーダムの前は、ストライクに乗っていたの?」

「え?」

 不意の質問に、男は言葉を詰まらせた。

 どうやら今は、それと無縁な生活を送っているらしい。

 無縁?
 今がどうでも、過去は消えない。

「ブリッツを撃ったよね?」

「!!?」

 ニコルとは言わなかった。

 一発で自分の罪を知らしめるように。

「君は……?」

「アラスカでも、君を見た。スゴイと、思うよ、でも、僕には君のやっていることが、わからない」

 地球軍の新型MSに乗って、僕たちと戦って、ミゲルを殺し、ニコルを殺し、ザフトのMSを奪って、今度は敵味方なく助けるような言葉を叫んで。

 戦争を終わらせる。
 そんなバカげた考えで。
 だったら。
 君はまた、戦争を止める?
 
「また戦争になるよ」

「え?」

「イザーク……あの頃はデュエルのパイロットかな。知らせに来た。地球軍に動きはないけれど、ユニウス・セブンでMSが幾度か確認されてる」

「ユニウス・セブン」

 うしろで、ラクス・クラインが呟いた。

 追悼慰霊団代表であった彼女には、何か思うところがあるのだろう。

「君は……君たちはどうするの?」

「………」

「また、第3勢力として、宇宙へ上がる?」

 不満が、口をついて出そうになった。

 それは自由な彼への嫉妬かもしれない。

 軍の規律を守り、守りたいものは確かにプラントだが、ジェネシスを使ったザフトを支持したくないという矛盾。

 そんな中ジェネシスを守りながら、プラントへ放たれる核を撃つのが、どれだけ苦痛だったか。

 地球軍であった足つきと、ザフトから強奪されたエターナル。

 フリーダムとジャスティス。そして、生きていたディアッカ。

 何事にも縛られることなく、己の道を突き進み、戦争を終わらせようとした彼らに、きっと僕は嫉妬している。

「宇宙へ上がらなければいけないよ、君は」

 なんて、身勝手な言葉。

 だがそれに、フリーダムのパイロットは承知したかのようにうつむいた。



 そのままエレカへ乗り込み、乱暴に公道を走る。
 うしろは振り返らなかった。

 アラスカで、敵味方関係なく救おうとしたキラ・ヤマト。

 そんな彼のように、自分も大切なものを守りたいのに。

 あの紫色の瞳は、すべてを受け入れたような色をしていて。

 彼と同じように、プラントを、地球を、助けたいと思ったのに。


 きっと彼とだけは、共に歩むことはできないだろう。

 彼はニコルを知らないと思えるほど、僕は大人じゃないから。
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