機動戦士ガンダムSEED Destiny ザフト編(完)

□大天使
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「スエズの増援が、オーブ……?」

 スエズ侵攻の作戦の終わり。

 グラディス艦長がアスランを引き止めて告げたのは、何とも酷な事柄だった。

 スエズの連合に派兵されてくるのは、世界安全保障条約に加盟したオーブ。

 条約に加盟することが自国の安全のためとはいえ、加盟すれば他国の争いに力を貸すことになるのは、当然だった。

「そんな……」

 アスランは目を見開いて呟く。

 それに、グラディス艦長は哀れみながらも厳しく言い放った。

「今はあれも地球軍なの」

 確かに、そうだ。

 だが、僕も信じられない。

 オーブといえば、中立。

 モルゲンレーテ社が連合のMSを作っていたことはあったが、それも代表の意思ではなかった。

 強大な力を持ち、その力で自国を守り続け、他国の争いに介入せず、必要なときには人命救助を行うのみだった、オーブが。

 アスランは拳を握り締めつつもうなづき、ブリッジを出て行った。

「あなたも、ツライかもしれないけど」

「え? ああ。でも僕の場合、アスランのような事情はないんで」

 大戦後オーブで暮らしていたからだろう、だがグラディス艦長の言葉に首を振った。

「ただ、信じられませんけど」

「私もよ。でも仕方がないわ」

「そう、ですね」

 仕方がない。

 自分でもそう思っていたのに、どこか引っ掛かった。

 プラントの命令に従って敵を撃つのが、僕たちの役目。

 敵と定められた国、以前までは中立を保っていて、同盟もきっと代表の意思ではないからといって、撃たない理由にはならない。

 それはフェイスの権限を持った艦長も、そしてアスランも同じだ。

「気心が知れた分、彼を支えられると思うわ、あなたなら」

「アスランをですか?」

 思ってもいなかったことを言われ、首を傾げた。

「彼、気難しいというか、踏み切れないところがあるみたいだから」

「ああ、あれは昔からですよ」

 悩んでも仕方がないことに悩み、答えの出ないことに答えを出そうとする。

 そして雁字搦めになり、最後にはとんでもないことをしでかす。

 いや、本人にしてみれば必死で出した答えなんだろうが、どうも常識を逸脱してしまっているのが、厄介だ。

 大戦のときも、父親のザラ議長に歯向かって、そのまま逃亡した。

 結果アークエンジェルと共に戦ったが、それが正解だったのかは、分からない。

 だって、彼はここに戻ってきてしまったのだから。

「アスランは……」

「?」

 僕の呟きに、艦長席につこうとしていたグラディス艦長は振り向いた。

「なんで、ザフトに戻ってきたんでしょう?」

 それに、艦長は答えなかった。

 答えられるのは、本人しかいない。

 もしかしたら、アスランでさえ答えられないのかもしれない。

「失礼します」

 スエズ侵攻を終えてから、僕の傷について話が行われる。

 それまでは目の前の戦闘のことだけ考えなければならない。

 痛む体に顔をしかめて、僕はブリッジを出た。


 今頃、どこかでフェイスのエリートは落ち込んでいることだろう。
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