機動戦士ガンダムSEED Destiny ザフト編(完)

□再出発
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 決まれば、事は早かった。

 職場には辞職願を出し、惜しむ店長にだけ本当のことを話してやった。

「ザフトの?」

「はい。黙っててすいません、あと僕は……」

「ああ、コーディネーターということかい?」

 それまで隠してきた素性を暴かれたことに、僕は少なからず驚いた。

 コーディネーターかナチュラルかなんて、外見では判断できないし、この職場ではナチュラルが多かったから、知らず自分も能力を抑えてきた。

 まぁ隠さずとも、僕の体力はナチュラルとそう変わりないが。

「別に隠すことじゃないさ、この国じゃ当たり前だし、現にサイキもリーナもコーディネーターだしね」

 ただ、ザフトの元軍人だとは思わなかったけど。

 苦笑交じりに話す店長は、大物だと思った。

 次につづいた言葉で。

「で、軍人に戻るということは、世の中に変化があるということだよね?」

「………」

 機密事項ではないが、民間人には知らせたくない事実であった。

………だが、知る権利があるのが、民間人だ。

「詳しいことは分かりません。ただ、軍にいたころの同僚から声がかかりました。元々、ザフトは人手不足ですから。僕みたいなものでも、欲しいんだと思います」


 言ってしまってから、心内でしたうちした。

 この店長は、部下への思いやりが大きい。些細な言葉の端も見逃さない。

「君は、どうしてそんなに自分を卑下するんだい?」

「別に……」

「仕事中もそうだった。ひょうひょうと何もかもこなしているように見えて、もう少しというところで待ったをかける。自信家のように見せかけて、昇進の話にはまったく食いつかない」

「それは」

 どうしようか。

 こんな他人に打ち明ける話ではない。
 他人?

 この人に知られても、他の誰に知られることはない。

 もし知られても、これから僕の生きる場所には関係のないことだ。

 話したら、少しはこの歪んだ性格が直るだろうか。


「僕は、一世代目のコーディネーターです」

 話し出した僕に、店長は頷いた。

「ブルーコスモスと同じ思想の祖父母を持った母が、なぜ自分はコーディネーターになれなかったのかと、いつも悔やんでいて……」

 空の化け物。
 と、祖父母の言葉が蘇る。

 コーディネーターを生んだ子もその孫も許せなかった祖父母。

「僕の兄をコーディネーターにしました。でも、コーディネーター作るのって、お金かかるんですよね」

 苦笑しながら、自らの欠陥がうずくのを感じた。

「もう、母は、子供がコーディネーターならいい。って感じで、とりあえず僕をコーディネーターにしたんです。知識を詰め込めるだけの頭、高い身体能力、どんな病にも強い肉体……のはずだった」

「……」

 話の中枢にいくにしたがって、店長は黙って聞いていた。

「心臓が、持たなくなったんです。コーディネーターの身体能力に。でも、ナチュラルなら、生まれる前に死んでいたといわれました」

「そう……」

「その失敗を嗅ぎつけた祖父母が、事あるごとに僕を話に出した。空の化け物を何故作ったって。だから、家族でプラントへ逃げました。それからです、大変だったのは。まぁ、農業プラントなだけ、マシでしたけど」

 農業プラントは長閑だった。

 それはきっと不幸中の幸いだったのだろう。

 体の弱い僕は、学校で他のコーディネーターと比べられた。陰で。マティウス市くらいの学校なら、たちまちいじめの対象だ。今じゃ、一世代目のコーディネーターなんて、珍しい。

 そして、心臓が暴れだしても、頼れる病院が少ない。

「僕は半端者だった。いろんな人を恨んだ。弱いナチュラル、ナチュラルの祖父母。作った母、完璧な兄。だから……」

「てんちょー、絶対これ、偽造ですよねー」

 いきなり、静かな休憩室に明るい声が響き渡った。

 うんざりした顔をしながら、休憩室に入ってきたリーナはカードを見せる。

 クレジットカードの偽造だ。

「あ、ごめんなさい。面談?……って、えー!! 何、辞めるの!?!? うそ!!」

「あ、ホント」

 店長の机に置かれた辞表を見て、リーナは声をあげた。

「だって、代わりなんて誰もいないよ。もともと人いないんだから! ねぇ店長!」

 偽造クレジットはいいのかな。

 お客さんは待たせてあるはずだ。

 店長もそれを察したのか、僕との面談。というより、僕の語りを終了にする気らしかった。

「じゃ、元気でね。たまには連絡してよ」

「はい。あの、ありがとうございます」

「?」

 恥ずかしい。

 こんな話、誰にも言うか、と思ってたのに。

「今月の給与明細は送っとくから。有給の確認もそれでしといて。お疲れさま」

「元気でねー」

 まだ未練のあるらしいリーナを、店長が促して扉に手をかけた。

 だが、ふとこちらを振り返る。

「農業プラントって、言ったよね」

 さすが店長、鋭い。

「はい、僕は所要でユニウス・セブンを出ていました」

「そうか、君に会えて良かったよ」

「………ありがとうございます」

「元気でね、遊びに来てね」

 リーナの言葉を最後に、扉は閉まった。

 静寂の支配する室内で、荷物をまとめる。
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