機動戦士ガンダムSEED Destiny ザフト編(完)
□フリーダムとストライク
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わめくイザークを、ザフトの停船まで送り届けた。
イザークを連れて行けば会えると踏んでいたディアッカは、残念ながら外出中。
「奴のことだ。またくだらないことでもしに行ったのだろう」
これは、イザークの言葉。
くだらないこと。とは、ナンパのことだろう。
以前任務でオーブに降りたときも、ディアッカはナチュラルの女の子もいいとか言い、イザークにどなられていた。
その帰り道。
もう当たりは暗闇に満ちていた。
だが高揚した気持ちのまま帰途につくのは野暮だ。
「さすがに、今じゃ誰もいないね」
近所の海岸沿いへエレカを止め、夏には大いににぎわう砂浜へ降りた。
地球独自の潮風に吹かれると、いまだに不思議な気がしてならない。
ただの風でさえ人工的力が作用しなければ起きないプラントと、自然が支えている地球。
自然の力とは、それほどすごいものなのか。
―――……れから、少しずつー
「?」
ふと、キレイな声が聞こえてきた。
それは透明な旋律を奏でる、美しいもの。
――思い出が、やさしく
「これって………」
記憶の中の歌声と照らし合わせたのと、次の声が聞こえたのが同時だった。
「テヤンディ!! テヤンディ!」
妙な声だ。
だが自分は聞いたことがある。
そう、確かこれは………。
「アスラン?」
二年前、彼の部屋からたまに、この声が聞こえてきた。
もちろん、堅苦しい彼が言っているわけではなく、カラフルなボール状ロボットが発していた声なのだが。
婚約者が喜んでくれたからと言って、あれを何十個も送ったという噂があったが、まさかそんな芸のないことはしないだろう。
いくらアスランが恋愛方面では鈍く、アカデミーの女子から人気はあったが、一部からは『無害』とされていた事実があっても。だ。
ここについては、ディアッカから少し指南を受けてもいいかもしれない。
「ダメですよハロ、夜は波が高いんですからね」
波にさらわれてしまいます。
とやさしい声の方角を見れば、幼い女の子を連れたピンクの髪の女性。
「ミレイ? もう気分は大丈夫ですか?」
手を引かれている少女は、女性の言葉にうなづくようだ。
どうやら、悪夢にでもうなされ寝付けない少女を散歩へ連れ出したところらしい。
「そろそろ戻りましょうね。ハロ! 帰りますよ!」
「テヤンディ!! テヤッ!」
?
機械の声が一時停止したと同時に、ガツン、という音が聞こえた。
球形ロボットは女性たちから随分遠くまで行ってしまったようで、目をこらさなければ何が起きているのかが分からなかった。
「ってぇなぁ!!」
前触れもなく響いた怒鳴り声に、少女はヒッと息と飲んだ。
女性は、少女の手をしっかりと握りなおし声をかける。
「あの、どなたかいらっしゃるのですか?」
「いらっしゃるじゃねぇよ!!」
応えたのは、呂律もうまく廻っていない野太い声。
だいたい予想はできた。
あのふざけた球形ロボットが、違法なクスリで夢を見ていた若者の頭を直撃したのだろう。
幻覚を見るような頭でも、ぶつかれば痛いらしい。
「すいません、お怪我はありませんか?」
そんな輩相手にまともに対応する女性の気が知れない。
男二人が女性へにじり寄ると、女性は少女をうしろへうながした。あくまで自然に。
それが凛然としていて、誰かを思い起こさせる。
自ら戦場へ出た、プラントの歌姫。
「ラクス・クライン??」
月明かりが、はっきりと彼女の顔を照らした。
夜の散歩には慣れているせいか、夜目には自信があった。
父であるシーゲル・クラインのあいさつ時、横に微笑んで立っていた姿より、だいぶ大人びている。
「おうおうすっげーケガしたよ! このくそロボットのせいでな!!」
「オマエモナ!!」
「んだとぉ!!」
「………」
あれがアスランから贈られたハロとか言うのならば、早々に手放したほうがいいと思う。
「ラクス? ミレイもそろそろ」
そこで、落ち着いた男性の声が聞こえてきた。
「ぁあ!? 何だオマエ!!」
「あ〜あ、何かややこしくなってるし」
ラクス・クライン一人なら、助けに行こうかとも思ったが、あれでは必要もないだろう。
それにしても、あの男はどう見てもアスランではない。
ラクス・クラインが父のシーゲル・クラインと共に反逆者として負われる身となって、あの二人の婚約は解消したはずだ。
ということは、ラクス・クラインはちゃっかりとこの三年あまりで彼氏を見つけ……。
「え? 子供もいるんだ〜。手、早いねあのお兄さん」
「あの、止めてください! ハロ……このロボットが当たってしまってすいません。でもこの二人は帰してください」
絡まれたとはいえ、原因は少なからずあのロボットにあるから、無碍に出来ないなんて、なんて面倒な男。
「さっさとのしちゃえばいいのに」
やはりというか、そのとき、怒りが臨界点に達した男の一人が殴りかかってきた。
ラクス・クラインをかばいながら、うまく後方へとよける。
「へぇ、反射神経はいいんだ」
助けに入るつもりはとりあえずない。
もしあれがラクス・クラインなら、僕の顔を知っている可能性がある。
エリートの間で開かれるパーティーには何度か出席しているし、その席には必ずラクス・クラインがいた。
パーティーのようなものが苦手なもの同士、ラスティとよくつるんでいたので、律儀な彼女なら、覚えているのかもしれない。
余計なことには巻き込まれたくない。
「やめてください!!」
「!!」
受身ながらも強く響いた声に、僕は息を呑んだ。
『アラスカは、サイクロプスを起動させ、自爆します!!』
「フリーダムの、パイロット………?」
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