機動戦士ガンダムSEED Destiny ザフト編(完)
□突然の訪問者
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「貴様! こんなところで何をしている!?」
久しぶりに会った彼は、相変わらずうるさくて、傲慢。
でもどこか、あの頃とは違って、瞳に影を抱いていた。
何より、以前の彼なら、他人のためにこんなところまで来やしない。
畳んでも畳んでも商品である衣服は乱されていく休日。
今は連休だ。その間に売上がどれだけ取れるかという、正念場。
本当なら、こんな時期ではなくもっとゆっくりできる閑散期に来てくれればいいものを。
そんなことを、この人間瞬間沸騰器に言っても仕方ないのだが。
「何って、服たたんでるんだよ。売れるほどあるからね、ここには」
あっさりと、それも業務をやりながらしれっと答えた。
手を止めている暇はない。
だが何がいけなかったのか、彼、イザーク・ジュールはさらに声を荒げた。
「そんなこと、見れば分かる! 俺が聞きたいのは、ヤキン後、貴様は何をしていたんだということだ!」
「何、と言われても、ねぇ」
ふと、せわしなく動かしていた手を止める。
ヤキン・ドゥーエ。
C.E71、ザフト対連合の、最後の戦い。
プラントを守るため、たくさんの兵がつぎ込まれ、ジェネシスの威力に呆然とし、ラクス・クラインの言葉に躊躇い引き金を引く指が鈍ったのを覚えている。
次々と打たれる核を、プラントをはさんで反対側から見ていた。
前線から離れ、後の復興のためにと、身の安全は保障された戦い。
そんな戦いは初めてで、何のために戦ってるのか考えるには、十分すぎた。
我々は、あんな異常なことをするナチュラルを滅するために、戦っている。
パトリック・ザラの言うとおりだった。
ジェネシスの後ろ盾のもと、前線へ出ようとディンを駆り出したときだった。
「核を打たれ、その悲しみを知る私たちが、同じことをするというんですか。
打てば癒されるのですか」
癒される?
知らない。
では、どうすればいい?
あの脅威から。
どうすればプラントを守れる?
ああ、そうか。
全ての人間が、そのことに恐怖している。
だからこそ、その恐怖の象徴として、こんなむごい戦いが始まる。
そして、終わらない。
置き去りにしようとした隊員に、帰還命令をくだした。
「はっ!? しかしっ!!」
「分からない? この戦いの無意味さが」
「………」
「そこで躊躇うなら無理だよ。躊躇わない者は、エターナルを撃てばいい。僕は核を落とし、ジェネシスを破壊する」
酔狂な命令に、何人の部下がついてきたか。
ジュール隊長の言葉。
「プラントへ放たれる業火」
そのとおりだ。
しかし、プラントだけか?
止めなければならない。
初めて、エターナル、クサナギ、アークエンジェルの存在意味を理解した。
あれは必要だ。
憤慨するイザークの表情に、そろそろ物思いにふけるのも終わりにしようと、口を開く。
「軍事裁判が怖くて、逃げちゃった」
「ふざけるな!」
半分冗談なのに、なぁ。
てゆうか、お客さんが逃げちゃうから、もうちょっと静かに………。
「戦後のゴタゴタで、除隊の手続きをさっさと済ませたまま、緊急の連絡もつかん」
「あ、それって変だよね。除隊なのに、緊急の連絡って」
「それが赤だろう!」
確かに。
赤は、ザフトエリートの象徴。
除隊後も、緊急を要すれば召集し、またそれに例外なく応じなければならないという、何とも束縛感高いもの。
成績上位で前線で、引き換えに暴れる許可と、エリートの道と。
数少ないコーディネーターで作られたザフトも、慢性的な人手不足。
それを補う、赤の宿命。
「これだけでも、問題になるぞ」
「………」
偽名を使って生活していた。
意図的に身を隠そうとしたわけではない。
ただ、就職面接の際、咄嗟に偽名を名乗ってしまった。
軍人が除隊後、偽名で生活。
よくありそうで、罰は重い。
だが見つかる心配はしていなかった。
こうなることは目に見えていたから。
きっと、僕の力が必要になったとき、僕の知り合いが、迎えに来る。
彼のように。
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