side-JADE

□MARRY ME
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「いつかはこんな日が来ると思っていました」

お茶を一口飲んだ後、山田さんが口を開いた。

「こうして結婚の挨拶に来られたという事は、
付き合いもそれなりに長いのだと思います。
その間、何も表に出て来なかったのは、きちんとした付き合いをしていたから

なんでしょう」

淡々と話す山田さんに、俺は緊張で唾を飲む。
社長さんに認めてもらっても、山田さんに認めてもらえなければ意味がない。

「ヒロインを……よろしくお願いします」

「あ……ありがとうございます!」

山田さんの言葉に、ホッと胸を撫で下ろす気持ちになる。

「ヒロイン、仕事は今後どうするんだ?」

「私は続けたいです。
夏輝さんとも話をしたんですが、二人の時間も大切にしたいので、
段階的に仕事の量を減らしてもらえたら、と思っています」

「そうだな。ずっと忙しかったから少しのんびりするのもいいだろう。
今すぐには難しいが、徐々に仕事を減らす方向で調整しよう」

「はい! ありがとうございます」

俺とヒロインちゃんは顔を見合わせて微笑む。

「用件だけで申し訳ないんですが、他にも回らなければいけないので、
これで失礼します。
お時間を割いていただいてありがとうございました」

事務所を出る直前、山田さんがすっとヒロインちゃんの隣に立ち、

「よかったな。幸せになれよ」

頭を撫でながら声をかけているのを目にした。

「はい……山田さん、今までありがとうございました……」

「今までって……引退する訳じゃないだろう」

ヒロインちゃんの言葉に山田さんが表情を崩す。

山田さんはヒロインちゃんをこの世界に引き入れ、
ここまで育てて来た、親のような存在だ。
その山田さんからの祝福の言葉は、何よりも嬉しいに違いない。

目を潤ませながら答えるヒロインちゃんの顔を、
俺は一生忘れないだろう。


嬉しさに浸るのも束の間。
次はJADEの事務所へと車を走らせる。
一時間だけという約束で、メンバーにも集まってもらっている。

事務所に入ってすぐのロビーで、
春、秋羅、冬馬は煙草を吸って談笑していた。
俺達の姿を見つけた冬馬が笑う。

「なっちゃん……成人式?」

今日の俺はスーツにネクタイ姿。
ピアスも全部外しているので、髪の色以外はその辺のサラリーマンと同じだ。
見慣れないその姿は、冬馬には成人式のように見えるらしい。

「笑うな! 俺だって着慣れないスーツって分かってるのに……」

「まあ、でも……似合ってる……ぜ?」

冬馬の横で笑いを堪えている秋羅。
そんなフォローは最早フォローでも何でもない。

「わ、私は似合ってると思います。
夏輝さんのスーツ姿……」

「ちょっと! 井上さん、聞きました?」

「聞きましてよ、水城さん。お熱いですわね」

「頼むからいい加減にしてくれよ……」

ヒロインちゃんのフォローに、またしても冬馬と秋羅が反応する。
俺とヒロインちゃんが赤くなりながらあたふたしていると、

「そろそろ時間だろう。行くぞ」

一人何も言わずに煙草をくゆらしていた春が動き出す。
歩き出そうとして足を止めると振り返り、俺達の前に立つ春。

「……おめでとう。
夏輝ならきっと幸せにしてくれる」

「神堂さん……」

それだけ言ってヒロインちゃんの頭を軽くポン、と撫でるように叩くと、
一人、応接室に向かって行った。
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