side-JADE

□片恋の休日
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翌朝、作業用のツナギに着替えると地下のガレージに向かう。
シャッターを開けるとそこには半年ほったらかしたヤツの姿。

HONDA、NSR250。

小さい頃にテレビで見たレースで一目惚れ。
免許を取れる年齢になる頃には生産が終了していたから、
程度のいい中古を探して探して、やっと手に入れた。

街中を走る最近のバイクとは違い、コイツは乗らなくても維持の為の整備が必要だ。
なのに仕事が忙しくてなかなかその時間も取れない。

久しぶりの丸1日のオフ。
どこからバラしてやろうかと考えを巡らせながら工具箱に手を伸ばした。



整備に没頭していると携帯からメール着信を知らせるメロディ。
油にまみれた手をツナギで拭ってパカンと開くと、そこにはヒロインちゃんの名前。

部屋に着いたらしいけど誰もいないようなのでちょっと慌ててるっぽい。
ドアの前であたふたしてる姿が見えるようで、そのまま電話をかける。

「もしもし?ヒロインちゃん?」

「もしもし、夏輝さん?
ごめんなさい…お留守でしたら出直して来ます…」

やけに沈んだ声に今度はこっちが慌てる。

「ううん…部屋にはいないけどマンションにいるよ。
ただちょっと手が離せないから地下のガレージに来て?」

「ガレージ…ですか?」

彼女に場所を伝えると、区切りのいい所まで終わらせてしまおうと、
再び工具を握る。

平日にガレージに篭ってるのは俺ぐらいだから、
彼女はすぐにここが分かったようで、

「夏輝さん?」

と聴き慣れた声と共に、ひょこっと顔が見えた。

「いらっしゃい。ごめんね?こんなとこに来させちゃって」

「いえ。夏輝さん、バイク乗るんですね」

「うん。最近は忙しくて全然乗れないんだけど。
あ、もうちょっとかかるから座ってて」

彼女に椅子を勧めて作業に戻る。
黙々と作業をする俺を、興味津々といった風に見る彼女。

「バイクの整備って大変なんですね」

「まあね。でも好きだからそんな風に思った事はないかな。
ああ、そうだ。春もバイク乗るんだけどさ…」

「神堂さんも?」

「そう。でもあいつ、自分で整備しないんだよ。
いつも俺に整備頼んでくるんだ。このバイクより手はかからないからいいけど…」

「そうなんですか」

楽しそうに彼女が笑う。
いつもは1人の整備。
話し相手がいると心なしかその手もはかどる。
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