藤崎義人

□Festival of the Weaver
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「ごめん、こんな時間に。
……いい?」

「うん。ちょっと待ってね」

チェーンを外し、義人くんを招き入れる。

「どうしたの?」

後三十分で日付が変わるという時刻。
それほど早い時間ではないけれど、明日も朝からロケがある。

「……一緒に空、見ようと思って」

「でも……星、見えないよ?」

「いい。キミと一緒にいたいだけだから……」

「え?」

義人くんはをつぶやくように小さい声で何か言ったみたいだけど、
それは私の耳に届かず。
聞き返しても、義人くんは何を言ったか最後まで教えてくれる事はなかった。


義人くんは私の手を引いてベランダに出る。
一緒に空を見上げてみるけど、やっぱり見えるのは空一面の雲。

「やっぱり見えないや……」

「いや。見えないけど、あの雲の向こうに星はある」

がっかりした私の声とは違い、義人くんは確信を持った声で言った。

「見えないだけで、そこにない訳じゃない」

ああ、そういう見方もあるのかと目から鱗だった。
確かに見えるのは雲だけでも、その向こうには輝く星がきっとあるはず。

「俺達みたいだな……」

「えっ?」

「俺達の事を知っているのはごくわずかの人達だけだ。
それ以外の人達にはあの雲に覆われた空の向こうにある星のように、
本当の俺達は見えていない」

そこまで言うと、義人くんはそっと私の肩を抱き寄せた。

「いつか……晴れた空に見える星空のように、
俺達の事も色んな人に見てもらえるようになれたら……」

最初はそれがどういう意味なのかよく分からなかったけど、
すぐに義人くんが何を言いたいのかを理解出来た。

「短冊にもそう書いてきた……」

私はその言葉にちょっとびっくりしたけど、
いつか本当にそうなったらいいなと、隣の義人くんにそっと体を寄せた。


翌日、笹に下げられた短冊を見てみると、

『晴れますように』

と一言だけ書かれたものがあった。

ストレートじゃなくて、分かる人にしか分からないように書いてあるそれは、
義人くんのものだとすぐに分かった。

この願いはいつ頃叶えられるのか。
いつか来るその日を楽しみにしながら、
私は今日も頑張ろうと、気持ちを新たに撮影に臨むのだった――。



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