本多一磨

□はじまりはいつも雨
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「また雨でしたね」

外で食事をして、俺の家で寛ぎながら彼女が笑う。

「京介がさ、キミが雨女じゃないかって言ってた」

冗談めかして言うと、彼女は頬をぷっと膨らませて拗ねた表情になる。

「私、雨女じゃないのに」

拗ねてるのは表情だけで、その声音はどこか楽しげだ。
そんな彼女が可愛くて、思わず抱きしめる。

「一磨さん…?」

「あんまり可愛いから…我慢出来なくなった」

彼女の体温を感じながらふと不安になり、
言葉にするつもりはなかったけど、つい口から零れた。

「ねえ…俺は上手にキミを…ヒロインちゃんを愛してるかな?
愛せてるかな?」

「急にどうしたんですか?」

彼女も不安げな目で俺を見る。
こんな事を急に言い出したのだから当然だ。

「俺がちゃんと愛せてないから、雨が降るのかな、なんて。
ほら…自分ではそのつもりでも、相手には届いてないって事もあるし…」

「一磨さんは…ちゃんと…愛してくれてます…」

恥ずかしいのか口ごもりながらも答えてくれる彼女。

「だから…そんな心配しないで下さい」

俺の不安を振り払うように、そう言うとそっとキスをしてくれた。
恥ずかしがりで照れ屋の彼女からの思いがけないキス。

「ダメだよ…今夜、帰せなくなるよ…?」

抱きしめる力が強くなる腕の中で、ヒロインちゃんは小さく頷く。
それを合図に俺はゆっくりと彼女を押し倒した。


目の前にいなくても、彼女を描けるくらいにこれまで幾度も愛し合ってきた。

そんな関係になっても消えない不安がもう1つ。

彼女は…俺を本当に愛しているんだろうか?

もちろん彼女を疑っている訳ではない。
彼女が愛するような男なのか、誰よりも愛してくれているのか、
俺に自信がないせいで、ついそう思ってしまう。

彼女が他の男と話していたり、
Waveのメンバーと楽しげにしたりしているのを見ると、
醜い嫉妬が頭をもたげてくる。

そんな俺を、果たして彼女は愛してくれているのか。
自信があるかと問われたら答えられない。

いつかそんな奴らを笑ってやり過ごせるような、
自分自身、胸を張って彼女にふさわしいと思える男になれたら。

小さい決意かもしれないけど、俺の思いを言葉以外で伝えたくて、
横で寝息を立てる彼女に手を伸ばし、抱きしめる。

「ん…一磨…さん…」

まだ眠りの中にいる彼女が俺を呼ぶ。
その声に胸が苦しくなり、彼女の髪に顔を埋める。

彼女を腕の中に抱いていると、急に昔を思い出した。

彼女への気持ち、それに気づいた自分、
そしてそれを取り巻くしがらみの間で揺れていた頃。

そう。
あの時も、雨だった。

彼女への想いに気づいた時、俺自身に対する決意をした今日。

いつだって、はじまりはいつも雨。
きっと、これからも―。



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