side-JADE

□すごくこまるんだ-after-
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ヒロインちゃん泥酔事件の翌日。
つまり、ヒロインちゃんを送っていった今日――。

俺は結局、最後の最後で本能に負けた。

(あんだけ酔ってりゃ覚えてないよなぁ……)

水を飲ませた時のヒロインちゃんの、

『好きです』

という言葉。

あれは酔った勢いなのか、酔って出た本心なのか――。
それすら分からないまま勢いでキスした事に自己嫌悪に陥る。

(嫌われたら立ち直れないよ? 俺……)

そんな事ばかりを考えていたせいで、どの道をどう通って来たのか、
まったく覚えがないまま、今日の仕事場のスタジオに到着。


「おはよーす」

「おはよう。

……冬馬?」

いつもなら朝だろうが夜だろうがテンション高く挨拶する俺が大人しいので、
早速なっちゃんが不審に思っている。

「……」

春も珍しいものでも見るような目で俺を見る。

「冬馬……具合でも悪い?」

「んー? 全然?」

「ならいいんだけど……本当に大丈夫?」

なっちゃんに覗き込まれた所で秋羅が入って来る。

「おはよう。ん? 夏輝、どうかした?」

「おはよう、秋羅。冬馬がね、なんだかおかしいんだ。
具合は悪くないって言うんだけど、元気ないみたいで」

なっちゃんの言葉の後、少し間があってから秋羅がにやりと笑う。

「ああ、それなら昨日大変だったからじゃないか?」

「昨日?」

「わー! なんでもないって!」

秋羅に”余計な事を言うな”とアイコンタクトを送る。
それを見た秋羅は”分かったよ”というように肩をすくめた。

「とにかく元気出せよ? 今日録り始める曲もあるし、
冬馬に頑張ってもらわないと先に進まないんだ」

「任せろ! この冬馬様にかかれば朝飯前だぜ!」

と言ったはいいけれど、いざレコーディングが始まればミスの連発。
威勢のいいのは言葉だけで、気持ちは空回りするばかり。

レコーディングは一向に進まず、とうとう春が呆れてしまった。

「冬馬……少し頭を冷やして来い」

「悪い……」

春の放つ刺々しい空気に耐え切れなかった俺は、
逃げるようにしてブースの外に出た。
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