side-JADE

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「何を言うかと思えば……。
ヒロインは哀しい話が好きだな」

お互いに仕事が終わり、春の部屋で寛ぐひと時。
ヒロインの他愛のない質問に小さく笑みがこぼれる。

「じゃ、じゃあ春は考えた事ないの?」

もしも春じゃない誰かを好きな自分がいて、
春の名前さえ知らずにいたら……どうする? と、
ヒロインが春に投げかけた疑問はこんなものだった。

「ない、な」

何の躊躇いもなく即答する春。

「俺は……キミと出会って運命というものを信じるようになった。
だから、そんな仮定の話なんて考えた事もない」

隣に座るヒロインの腰に手を回し、ぐっと抱き寄せる。
その温もりを確かめつつ、そっと唇を重ねた。

幾度こうしてキスをして抱き合って、
幾度朝を迎えただろう。
ふとそんな事が頭をよぎる。

体を離し、ヒロインを見つめ、

「そんなにもしもの話をしたいなら……。
たとえこの先、キミの未来にどんなもしもが降りかかったとしても、
俺の気持ちが変わる事はない。
ずっとキミの味方だ」

「春……」

「そうだ……俺達の間に何かが起こって、
心を痛める日が来るかもしれない。
そんな日の為に……」

春は立ち上がるとテレビボードの引き出しから何かを取り出し、
再びヒロインの隣に座った。
その手には小箱が握られている。

「ずっとこれを渡したかった。
どんな事があっても俺はキミから離れたりはしない。
これを俺だと思って。いつもそばにいるから」

春は小箱から指輪を取り出し、ヒロインの指にはめる。
それはまるで春自身のように、自分の心を温かく包み込んでいくのをヒロインは感じた。

「ありがとう、春……すごく嬉しい。
大事にするね」

ヒロインの指に光る指輪にキスをすると、
そのまま額にもキスをした。

この人となら、どんな事にも立ち向かえる。
そう思える相手に巡り会えた事に『もしも』が立ち入る隙間なんてない。
お互いの考えている事は分からないけれど、
二人の思いはきっと同じなんだと、そんな確かな思いを感じていた。
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