side-JADE

□すごくこまるんだ
1ページ/2ページ

「冬馬さん!」

俺は今、窮地に立たされている。


事の始まりは数時間前に遡る。
秋羅、俺、ヒロインちゃんで飲みに行ったはいいけど、
止める俺らを振り切って強めの酒を水のように飲むヒロインちゃん。
どうなるかなんて一桁の足し算以上に簡単だ。

お酒に弱いヒロインちゃんは泥酔。
おまけに半分寝ているから、話しかけても返ってくるのは
「うーん」という返事だけ。

「何かあったのかな、この飲みっぷりは」

「かもな。この子がこんなに飲むの見た事ねぇし」

俺と秋羅は顔を見合わせて肩を竦める。
とりあえず彼女をどうするか、今はそれが問題だった。

「確か彼女の家、今日は誰もいないって言ってたな…。
秋羅、お前んち大丈夫か?」

「ダメだ。この世のものとは思えないくらい散らかってて、
朝起きて悲鳴上げられる事請け合い」

「じゃあ…どうすんだよ。春か夏輝んとこか?」

「あいつら今日はスタジオに缶詰だろ。
多分帰らないんじゃないか?」

「て事は…俺んちしかないのか…」

渋るのには訳がある。
遊びの女なら喜んで泊めるところだが、彼女…ヒロインちゃんは、
俺にとってそういう対象じゃない。

詰まる所…本気。

「悪いな。今日は俺の奢りにしとくから、頼む!」

参ったな…。
だけど彼女を託せる当ては他にない。

「狼男に変身しても知らねぇぞー」

軽口を叩いてごまかしてみても、内心は心臓バクバク。

(一晩何もしないで過ごせる自信ねぇよ…どうすんだ、俺?)


秋羅と別れ、彼女を小脇に抱えるようにして歩く。
幸い俺の家の近くで飲んでいたから、あまり人目にもつかずに帰れた。

帰る途中も家に入ってからも、ヒロインちゃんは夢と現を行ったり来たりしているみ

たいで、
時々言葉にならない言葉を発してはうとうとしている。

「こら、ヒロインちゃん。起きて水飲んで」

軽く揺すったり頬をぺちぺち叩いたりしてやっとの思いで起こし、水を飲ませる。
口の端から水が少し零れる。
その姿が妙に色っぽくて、思わずドキリとする。

本能は右手を伸ばしたがっている。
それを理性は左手で止める。

葛藤をしている俺をよそに、彼女は水を飲んだ事で少し目が覚めたようだ。

「冬馬さん…ここ…?」

そう問いかける唇はまるで俺を誘ってるようで。

(試されてる…俺、絶対試されてる…)

限界ギリギリ。
俺の中で理性と本能がせめぎ合う。

「目、覚めた?ここ、俺んち。
シャワー浴びてさっぱりしてきなよ」

そのままにしておく訳にもいかないのでシャワーを勧める。

「寒いから浴室暖めてくるね」

そう言って立ち上がる俺の腕にしがみつく彼女。

「冬馬さん!行かないで…」

潤んだ瞳で見上げる彼女から、俺を揺るがす言葉が放たれる。

「好きです…」

待て待て待て!それは反則だ!
その一言は俺の理性を打ち抜くに十分な破壊力があった。

すべてを捨てて彼女を抱きしめられたら。
彼女の肩に手が伸びる。

俺に倒れこんで来る彼女に理性にひびが入る。
もう決壊寸前のダムみたいに、本能がなだれ込んでくるのも時間の問題だ。

抱きしめたい。キスしたい。
だけど、それは出来ない。

どーする?俺?!
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ