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□ファンタジー
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「ようこそ、Waveのコンサートへ!」

オープニングから二曲歌い終えた所で、
一磨の呼びかけを皮切りにメンバーが言葉を繋いでいく。

「辛い事や悲しい事があって泣いてたキミ、涙を拭いて。
俺達と一緒に目一杯歌って楽しんでいってね」

「さあ、手を上げて手拍子して!
今日のお客さんはノリがいいね!」

義人に続いて京介が場内を盛り上げる。

「生きてれば嫌な事ってあるよね。
でも、今日この瞬間だけはあっちに行ってて欲しいかな。
その代わりに僕らが夢の世界へ連れて行ってあげるから」

亮太がウインクすると黄色い歓声が上がる。

「俺達には歌う事しか出来ないけど、
今日はキミに一緒に歌って欲しい。
帰る時に笑っていてくれたら最高だよ!」

翔が締めるとお客さんのボルテージは最高潮に。

五人は舞台の広さを感じさせないほどに走り、踊り、そして歌う。
亮太の言う通り、それはWaveが作り出す夢の世界。


そしてコンサートもラスト一曲を残すのみとなった。

「――一年三百六十五日、楽しくて笑いがこぼれる日もあれば、
悲しくて悲しくて、涙がなくなっちゃうかも、なんて日もあると思う」

シン、と静まり返る場内に、一磨の声が響く。

「音楽じゃ……俺達の歌じゃ何も変えられないかもしれない。
だけど、このコンサートで少しでも心が軽くなってくれたのなら、
俺達が歌う意味はあるのかな、と、最近そんな事を思います」

どこからともなく拍手が起こる。

「このコンサートツアーのテーマは『ファンタジー』です。
日常の中の非日常、幻想の世界にお客さんを連れて行く事で、
その瞬間だけは悲しい事を忘れて、楽しんでもらって、
帰る時に皆が笑顔でいてくれたら。
そんな思いが込められています」

「今日はどうもありがとう!」

五人の声が揃う。

最後の曲のイントロが流れ、薄暗い場内には無数のペンライトが光る。
観客にとってはファンタジーの世界に留まれる最後のチケットだ。

Waveのメンバー、観客、皆が最後の時を惜しむように、
歌詞の一節一節を噛みしめながら歌い、夢の世界の幕は下りていくのだった――。





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