中西京介

□熱情が生まれた日
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どうしてこんなにイライラするんだろう――。


ヒロインちゃんと隼人さんに熱愛の噂。
この世界じゃ珍しくもない。
嘘か本当か、そんな事にも興味はない……はずだった。


テレビ局の廊下でヒロインちゃんと会った時。
胸がざわついて、どうして隼人さんなんかと噂になってるんだという怒りで、
そっけない態度を取ってしまった。

その後、隼人さんと一緒にいる所に出くわした時だって、
胸が苦しくて切なくて……。
心にもない言葉を吐かずにはいられなかった。


会いたくない時に限って、どうしてこう顔を合わせてしまうのか。
マンションのエントランスでもまたヒロインちゃんとばったり会った。

彼女は隼人さんとの事を言い訳していたけど、
そんな話は聞きたくもない。

『彼氏でもないのに』

自分で口にしたこの言葉に、自分でも驚く。

この感情は――。

いや、そんなはずはない。
俺は真剣な恋はしない。真剣な恋は必要ない。
ずっとそう思ってきた。

それなのに、どうしてヒロインちゃんの事でこんなにイライラするんだ。
何かの拍子に自分を抑えられなくなるかもしれないという予感さえある。

どうしちゃったんだ、俺……。


そんな俺をよそに隼人さんの事を話し続けるヒロインちゃん。
俺のイライラはピークに達する。
タイミングよくエレベーターが来たのをいい事に、
俺はヒロインちゃんをエレベーターへ引っ張り込み、衝動的に唇を奪った。


自分が何をしているのか、すぐには理解出来なかった。
気がつくと彼女の顔が目の前にあって……。
ついさっき感じた予感が現実になった瞬間だった。

エレベーターが二階へ着き、扉が開く。

「ごめん……俺、おかしいわ」

それだけ言うと、彼女の肩をトン、と押して扉の外へと送り出す。


一人になったエレベーターの中、ずるずると座り込む。

キスをした事でこのイライラの原因が何なのか分かってしまった。
だけど認めたくない。
認めたら……自分がどうなるのか分からなくて、怖い。


この気持ちに嘘はつきたくない。
でも、本気の恋はいらない。

答えが出るのか、出せるのか。
それすらも分からないまま、色んなものが混ざった感情を抱えて、
俺はただ唇を指でなぞっていた。



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