中西京介
□アイシテルノコトバ
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次の仕事前の空き時間。
何か飲もうと自販機コーナーで飲み物を選んでいると、
ヒロインちゃんが歩いてくるのが見えた。
気になる存在ではあるけれど、一歩踏み出すきっかけが見つからずにいる今日この頃。
これはチャンスかも、と声をかけた。
「ヒロインちゃん?」
「あ、京介くん!」
俺に気が付くとパッと笑顔になる。
そういうとこが可愛いんだよなぁ…。
って、違う。今はそんな事思ってる場合じゃなくて。
聞くとヒロインちゃんも時間があるらしい。
Waveの楽屋だと翔がうるさいし、ヒロインちゃんの楽屋で2人きりも今はまだまずい。
とりあえずヒロインちゃんの飲み物も買って、
休憩スペースにある椅子に座って話そうと誘った。
「ねぇヒロインちゃん。”I love you"ってどうやって訳す?」
と尋ねてみた。
「え?どうやってって…そのままかな?」
何故そんな事を聞くのか不思議そうな顔をした次の瞬間、
「あ。確か夏目漱石は”月が綺麗ですね”って訳したよね。
そういう感じでって事?」
そこに辿り着くなんてはなかなかやるね?
さすが義人と肩を並べるくらいの読書家。
「そうそう。そんな感じ」
でね…と、ネットで見たエンターテイメントニュースの記事の話をする。
とあるバラエティのTV番組内で、このお題に対するあるミュージシャンの答えが”名言だ”と話題になってると。
「その人の訳見て俺、負けられないって思った」
名言としてネット上を賑わせているのは、JADEのボーカル・神堂春だ。
プロデュースしているヒロインちゃんとの噂が絶えない。
ヒロインちゃん自身、否定はしているけどまんざらでもなさげで、
そんな彼女を見るたびに振り払えない胸のもやもやを感じていた。
負けられない、という俺の言葉の意味が分からないらしく、
キョトンとしている彼女に、神堂さんの言葉だと教えると、
みるみる顔が赤くなった。
そんな顔をするなんて…。
思ってもいなかった反応に込み上げる衝動を抑え切れずに、
彼女の腕を取るとグッと引き寄せ、強く抱きしめた。
「神堂さんの事…好きなの…?」
切なげに彼女の耳元で囁くと、
俺からバッと離れてブンブンと首を横に振る。
あれ?
またしても予想外の反応。
「し…神堂さんはプロデューサーで…確かに好きだって言われてるけど…」
と、俯きながら小さい声で否定し、続けた。
「私…好きな人いるから…」