藤崎義人
□Festival of the Weaver
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「やっぱりダメかぁ……」
ホテルのベランダで厚い雲に覆われた空を見上げ、私はため息をついた。
今日はどうしても星空を見たかったけれど、天気には敵わない。
ドラマのロケで五日間滞在予定のここは、
山も近く、海も歩いてすぐという、自然に囲まれた場所。
今回のドラマではヒロイン役……というより主役そのもので、
初めての大役にプレッシャーを感じていた。
相手役は付き合って一年近くになる彼……義人くん。
おかげで撮影中は息がぴったりだねと褒められる事も多い。
だけど、私達の関係を知っているのはごくわずかの人達だけなので、
ただ単純に息が合っていると、スタッフにはそう思われているらしい。
このドラマは共演者もスタッフもとても仲が良く、
今日も美術さんがどこかから笹を調達して来てくれて、
撮影が終わった後で皆で飾り付けをした。
短冊にも願い事を書いた。
『皆が仲良くいられますように』
なんて、ありきたりな願い事だけど。
山田さん、社長、仲の良いWaveのメンバー。
そしてお仕事を通じて知り合った人達。
皆が元気で仲良くいられたらいいなんて子供みたいだけれど、
今の私にはそれが一番の願い事だった。
いくら眺めていても雲が消える事はなく、
諦めて部屋に戻ると、ドアをノックする音。
(誰だろう? こんな時間に……)
「はい」
念の為にチェーンをかけてあるドアを開ける。
隙間から見えたのは、義人くんの姿だった。