本多一磨

□眠り姫
1ページ/3ページ

「一磨さん! また同じ舞台に立てますね」

テレビ局の廊下をヒロインちゃんが嬉しそうに走って来る。

シリーズが何作も出ている人気RPGの舞台化が決まり、
俺とヒロインちゃんが主演に抜擢された。

「俺も昨日聞いた所だよ。頑張ろうね」

あのミュージカル以来、久しぶりの舞台共演。
舞台自体も楽しみなのはもちろん、彼女と一緒に仕事が出来るのが嬉しい。


勇者とお姫様が魔王を倒す為に旅をする。
二人は恋人同士でもある。
途中、お姫様は魔王に、二度と覚めない深い眠りに落ち、
何日か後には存在が消えてしまうという呪いをかけられる。

勇者は悲しみを乗り越えて一人で旅を続け、
ついには魔王を討伐する。
だけど、平和になった世界には彼女はいない――という、
およそハッピーエンドとは程遠いストーリーだ。


シナリオがとても秀逸で、ソフトが発売された当時、
ゲームに詳しい翔や亮太が絶賛していたのを思い出す。
聞く所によるとシリーズの中でも一、二を争う人気らしい。

その人気作の舞台化で主演。
改めてプレッシャーの大きさとやり甲斐を感じて、俺の胸は高鳴った。



稽古は順調に進んでいった。
ヒロインちゃんの演技はテレビや映画で見てはいたけど、
改めて目の当たりにすると、一段と磨きがかかったように見える。
そんな彼女の姿に、俺も負けていられないと稽古に熱が入る。

そして舞台は初日を向かえ、前評判の高さも相まって、
連日満員に近いお客さんが劇場に足を運んでくれた。


一ヶ月に渡る舞台の半分が過ぎた頃、俺は夢を見た。




夢の中で目を覚ましたはいいけど、横で寝ているはずの彼女がいない。
携帯は繋がらず、メールも戻って来てしまう。
山田さんに連絡してみても『ヒロイン? 誰ですかそれは』と言われてしまう。

まるでこの世界には初めからキミが存在していなかったように――。

嘘だ!
彼女が黙って俺の前からいなくなるはずがない!

必死に探し回ると、暗い部屋に横たわる彼女を見つけた。

「やっと見つけた……」

彼女に駆け寄り名前を呼んでも、ぴくりとも反応しない。
胸が上下しているので息はあるらしいが、
その姿は既にこの世のものではないようにも見える。

「ヒロインちゃん……?」

やはり反応はない。

「そんな……どうしてっ……」

気づけば俺は泣いていた。
流れる涙を拭いもせず彼女を揺さぶり続け、目を覚ます事を願い続けた。

この芸能界を、彼女のいない世界を、俺はこれから一人で戦っていかなければ

ならないのか……。

「ヒロインっ――!」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ