本多一磨
□はじまりはいつも雨
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ふと空を見上げると、今にも泣き出しそうだった。
(今日も雨…か)
雨が嫌な訳じゃないけど、何故か心を暗くする力があるように思える。
少し恨めしげにため息をつくと、耳聡い京介が反応する。
「一磨、また雨だね」
俺の今日これからの予定を知ってる京介は、
冷やかしを含んだ響きで俺に声をかける。
「俺、雨男じゃないはずなんだけどな…」
「じゃあヒロインちゃんが雨女?」
そんな感じじゃないんだけどね、と京介。
彼女…ヒロインちゃんと付き合って半年。
梅雨の季節でもないのに、何故か彼女と逢う日は雨が多い。
彼女にその話をした時は、
「雨の日って水のトンネルをくぐってるみたいだし、
傘に隠れて周りの目をそんなに気にしなくてもいいので、
私は幸せ…かも…」
なんて、雨をまったく気にする様子はなかった。
雨も日も晴れの日と同じように楽しんでいる、
そんな彼女が日に日に愛しくなる。
『愛』なんて言葉じゃ表せないくらい、足りないくらいだ。
こういう気持ちはどうしたらいいのか、自分でも時々分からなくなる。
「ヒロイン―」
ぽつり、彼女の名前を呟いてみる。
正直、どこにでもあるようなありふれた名前ではある。
だけどこうして言葉にすると、それがとても心地いい響きを帯びて俺の心に染みていく。
誰かを愛する事で名前さえも愛おしくなる。
彼女に恋をして、俺はその事に気づいた。