VD企画

□for you...
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思ったより早く仕事が終わったので、
JADEがレコーディングしているスタジオに急ぐ。

最近はレコーディングが佳境なのか、
メールをしても返事がない事が多かった。
だから会いに行っていいものかどうか迷ったけど、
今日はバレンタインだし、どうしても直接チョコを渡したかった。


スタジオに入ると、休憩中なのかメンバー揃ってロビーで寛いでいた。

「お疲れ様です!」

メンバーそれぞれが声をかけてくれる中、
神堂さんが空いている自分の隣に座るようにポンポンとソファーを叩く。
座ると春の手が腰に伸びてきて、ぐっと抱き寄せられた。

「し、神堂さん?」

真っ赤になる私を尻目に、当の新堂さんは涼しい顔。

冬馬さんに冷やかされつつ、3人にチョコを渡す。
もちろん、神堂さんにも。

皆それぞれに美味しいと言ってくれてホッとする。
昨日徹夜して作った甲斐があるというものだ。

「ヒロインちゃん、俺達はもう上がりだけど、春はまだ作業が残ってるんだ。
休憩がてら、2人でゆっくりしたらいいよ」

夏輝さんが言うと冬馬さんが一緒に飲みに行こうと騒ぎ出したが、

「お前さあ…少しは空気読めって…」

という一言でしぶしぶ帰り支度を始めた。
今度行こう!絶対だよ!と最後まで後ろ髪を引かれている冬馬さんを、
夏輝さんと秋羅さんが両脇を抱えるようにして帰って行った。

2人きりになって場を持て余していると、
神堂さんが立ち上がり、私に左手を差し出す。

「おいで…」

よく分からないままその手を取ると、ピアノのあるブースに連れて行かれる。
ピアノの前にもう1つ椅子を置くと、座るように促される。

座ると神堂さんがピアノを弾き始める。
流れる旋律に彼の声が重なり、詞が作る世界に引き込まれていく。


「―キミの為に、作った」

演奏が終わり、神堂さんが呟く。

「キミにはいつももらってばかりだから…。
今日を機会に何か返したかった」

神堂さんがそんな風に思っていたなんて。
この嬉しさはどうしたら伝えられるのか。
まとまらない言葉と脳内で格闘していると、神堂さんが続ける。

「この曲を世に出すつもりはない。俺とキミ、2人だけの曲だ。
どうしても今日に間に合わせたくて、メールの返事も滞ってしまった…」

忙しいレコーディングの合間を縫って、私の為に曲を…。
そう思ったら自然と涙が頬を伝った。

「すまない…泣かせるつもりじゃなかったんだが…」

少し困った顔をして、頬を伝う涙を指で拭ってくれる。
そのままそっと抱きしめられる。

「神堂さん…」

「名前…名前で、呼んで…」

「春…」


付き合い始めてまだ1ヶ月足らず。
まだ名字でしか呼べなかった彼を、初めて名前で呼べたバレンタイン。
2人の距離がまた少し縮まった気がした。




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