Honey Jiro Book
□Fer
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「景吾…もっと…」
「ジロー…」
ジローはそう言って俺の首に腕を回す。
「もうやめとけ。明日動けなくなる」
もういつもの三倍は動いているような気がする。ジローは見るからにへばってるくせに、執拗に俺を求めた。
「やだっ…もっと…跡つけて…?お願い…!」
ジローは自分の首元に俺の頭を押し付ける。俺は言われるまま、微かに震えるジローの首筋に自分の跡をつけていく。
ジローはたまに、何かが弾けた様に感情を露わにする。それは主に、悲しみの感情。
ジローは首筋に吸い付く俺を離さまいとしがみつく。
「…んな事しなくても、俺様はここにいるだろ?」
「…や…もっと、ぎゅってして」
必死に懇願するジローは余裕のない表情をしている。今日は二人きりになってからずっとそうだ。ジローは今までずっと孤独だったかのように俺を求めた。だがその理由を俺は聞かなかったし、ジローも話さなかった。
朝になって学校に行き、いつものように一日を過ごす。
午後、俺の教室の前を通り過ぎようとするジローを見かけた。
「よう」
「あ、跡部ー!やっほ〜」
ジローは二人きりの時以外、俺の事を名前で呼ばない。それは俺達の関係を周りに秘密にしているから。
「何してんだよ」
「教室に誰もいないと思ったら次体育だったC〜。早く着替えて校庭行かなきゃ!」
昨夜の事が嘘のようにジローは明るい。
「…運動なんて出来るのかよ」
「大丈夫だよ。バカにしちゃって〜」
俺は昨夜の事が心配で聞いた。だがジローはそうやっておどけ、辛そうな素振りは見せない。昨日のあの感じじゃ、歩くのだって辛いくせに。
「じゃ、俺行くから〜」
「…ああ、怪我するなよ」
ジローの後ろ姿を見送った。