Honey Jiro Book

□人形
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「跡部と付き合う事になった」

部活終了後の部室。残っていた向日、宍戸、忍足、滝、鳳、日吉、そしてジロー。
皆が着替え終わった時、ジローの口からその言葉が発せられた。それを聞いた時日吉は驚きと同時に、正直な事を言うとショックだった。
別にジローとどうこうなりたいと言う訳ではなかったが、何かとちょっかいを出してくるジローに、日吉は多少の好意を抱いていた。だから少しだけ、寂しかった。

「は!?」

二人がそんな事情になるとは思ってもみなかったのか、そのような話題に疎い日吉は勿論だが、ずっと一緒にいたはずの向日や宍戸も驚いている。

「マジかよ!そんな雰囲気全然気が付かなかったんだけど!いつの間にそんな風になったんだよ!」

向日さんが驚いて聞く。俺も同じ気持ちだ。

「ん〜、一緒に帰ったり話してるうちにそんな事になってた〜」

「で、いつから!?どっちから告ったんだよ!?」

「えっとねえ…一週間前に跡部から〜…」

「「「えええ〜!!!」」」

その場にいた向日、宍戸、鳳が大声を出すと、ジローは恥ずかしがって俯いた。

「あの俺様がなぁ…意外とやってくれるわ…」

忍足は苦笑いだ。どちらかと言うとジローは忍足や宍戸とくっつくのでは、などと噂されていた。

「でね、これ言うの、ここの皆だけだから…誰にも言っちゃ嫌だよ?」

ジローは上目遣い気味に言う。そんな顔をされては誰も断れない。

「勿論ですよ!俺なんかにも教えてくれてありがとうございます!」

「ま、それがええな…跡部に恋人なんて、ファンが暴動を起こすわ」

「何かあったらいつでも相談しろよ?」

「跡部はジローにやけに甘いと思ってたけど…あの跡部を落とすなんて、やるねー」

「クソクソ!跡部のやつ俺のジローを!…で、その跡部はどこ行っちまったんだ?」

向日が部室をキョロキョロ見回す。向日が騒がしいのはいつもの事だが、今日はやけに楽しそうで騒がしい。

「生徒会の用事が残ってるんだってさ。皆に報告するの、全部任されちゃった」

ジローがそう説明すると、そこにいる部員達は爆笑する。

「ギャハハハハ!!跡部ウケる!!」

「ぶははは!激ダセーっ!ま、アイツらしいっちゃアイツらしいけどよ…ククッ…」

「えー?何笑ってんのー?」

その様子にジローは不思議そうにしている。

「ふふっ、跡部ったら照れてんのかね〜?」

「クククッ…!せやからジロー、用事なんてホンマは無いねん」

「成程!跡部さん、自分で言うのは恥ずかしいから、ジローさんに言ってもらったんですね!あんな自信家の跡部さんの意外な一面ですね…」

鳳の説明口調な台詞でやっと理解したのか、ジローもみんなと一緒に笑った。

「なんだ〜、跡部ったらシャイだC!」

そんなこんなで微笑ましく話は収まり、その日は解散となった。


帰り道、鳳は日吉に言う。

「それにしても驚いたよね?跡部部長とジロー先輩。俺全然気が付かなかったよ。日吉は気付いてた?」

「さあ、俺はそう言うの興味無い」

「そう?日吉は冷めてるなー…日吉、ジロー先輩と仲良かったじゃん」

「俺が芥川さんと?」

「そうそう!部活中よく二人で楽しそうに話してるじゃないか」

「…。俺が芥川さんと楽しそうにねぇ。確かに、芥川さんは向日さんと一緒になって、よく茶化しに来るが…」

(芥川さんには下剋上精神で何度か試合を申し込んだな。全部負けたけど。それから色々話すようになって、芥川さんは俺が読んでる本や漫画(ホラー・カルト)に興味を持ってくれたっけ…)

思い返すと、寂しくなってきた。

「…日吉?」

「忘れ物をした。悪いが先に帰ってくれ」

「え?あっ、ちょっと!…ま、また明日〜!」

焦る鳳を背に、日吉は一人学校に戻った。部室に一人残してきたジローが気になったからだ。

(俺は別に芥川さんとどうこうなりたい訳ではない。芥川さんが誰と付き合おうと、俺には関係ない)

ただ、あの人が自分から離れていってしまうのではないかと思うと寂しくなった。だから少しだけでいいから話がしたかった。跡部が来るまででいい。

日吉が部室に着くと、まだ灯りがついていた。扉に手をかけた時、中から人の話し声がすることに気付き、少しだけ開いた隙間から日吉は中の様子を伺った。
遅かったか…日吉は思った。
そこには跡部とジローの姿があった。跡部はジローの腰に手を添え、ジローも跡部の背中に手を回している。抱き合うようにしながら、二人は他愛のない話をして笑っている。日吉は幸せそうに笑うジローの顔を見てひどく落胆した。

「……」

急に室内が静かになり、自分の存在が気付かれたのではないかと日吉は焦り、再度中の二人を見上げた。しかし二人は日吉に全く気が付く事なく、お互い見つめ合い、そして、ゆっくりと唇を重ねた。その瞬間日吉は走り出し、部室を後にした。


その後二人は半年、一年と順調に交際を続けていった。
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