Honey Jiro Book
□秘密の思い出
1ページ/3ページ
・テニス合宿でカナダに行くはずが、寝坊して飛行機に間に合わず
「アーン?ジローとはぐれた?」
合宿当日の朝。集合場所の空港で、何やら嫌な事を向日から聞いてしまう。
「ずっと一緒だったのにいつの間にか居なくなっちまったんだよ!仕方ねえだろ!人はいっぱいいるし荷物も重いし、俺だって余裕なかったんだよ」
そう言いながら向日は携帯電話でジローにしきりに電話を掛けている。が、一向に繋がる気配はないのはいつもの事だ。
「くそくそっ!あいつ絶対寝てやがる!」
信じられないやつだ。いや、ジローの寝坊は少なくとも予想の範囲内だった。ただし、家で寝ている事が前提だがな。今朝俺様が起きているか確認してやったのに、どうして途中の道で寝るのか。結局ジローと連絡がつかないまま、飛行機の時間が近付いてしまった。
「ちっ、もう時間だ。そんなマヌケ野郎に構ってる暇はないぜ。向日、帰って寝てろってメール送っときな」
その言葉に、部員達がざわめく。
「クソクソ!ひでえよ跡部!!お前がそんな奴だとは思わなかったぜ!」
「そうや。ジロー、遠足のしおり毎日眺めて楽しみにしとったやないか」
「せっかく朝早く出てこれたってのに、激ダサだぜ。ナイアガラの滝見るってはしゃいでたのにな。かわいそうに…」
「かわいそうに…」
「かわいそうに…」
「やめろ、俺様が悪者みたいじゃねーか」
と言うか、遠足のしおりなんて誰が作ったんだ。遊びに行くんじゃねーんだぞ。そんな事を考えていると、やっと向日の携帯電話が鳴った。
「ジローだ!!もしもし!?無事だったか!?」
『わーん!がっくんー!』
俺様は向日から電話を取り上げた。
「おいジロー!てめーどこで何やってやがる!」
『わあああん跡部ぇーー!電車で寝てたらいつの間にか全然知らない所にいたよぅ!』
電話から聞こえてきたジローの困った声に、俺様は頭を抱える。ジローに駅名を問うと、本当にどうすればこんな所に行くのか分からないような場所にいやがった。忍足がそこからここまでの電車を調べる。
「とりあえず○○行きに乗って、××で降りろ。分かるか?」
『えーと、うん××ね〜』
「一旦切るぞ。また掛けるから絶対出ろよ」
『は〜い』
電話を切って向日に携帯電話を返すと、俺様は自分の携帯電話を開く。
「カナダ行きの飛行機を二席用意しろ」
「跡部、どうする気だ」
「監督、ジローを待って二人で遅れてカナダに向かいます。他の部員をよろしくお願いします」
「…仕方ない。気を付けるんだぞ」
「はい」
「…次回からは、学校から全員でバスで移動にしよう」
「…はい。樺地!俺様の荷物を運んでおけ!」
…ったく、放っておける訳がない。
俺様がジローを連れて行くと言うと、部員達はわっと喜んだ。ったく、こんなハプニングを起こして許してもらえるのはお前くらいのもんだぜ、ジロー。
「ありがとな跡部!ジローを頼むぜ?俺、ジローがいねーと…」
仲の良い向日は、やはりジローを相当心配しているようで弱気な声で話す。わざとではないしそんな義務もないが、置いてきてしまった自分に責任を感じているのかもしれない。
「アーン?心配しなくても俺様が付いていれば平気
「俺達、おやつ被らないように一緒に買いに行ったんだ…。俺の好きな味噌味うまい棒、ジローが持ってるから…」
俺様は一人残り、電車には詳しくないが忍足の残したメモを見てジローを誘導する。
「おい、寝るな」
『…っと…ん、起きてるよ。…駅着いた!降りるね〜』
『えーと、改札出て、エスカレーターで上昇って……●●って場所に来た』
「よし、そこに居ろ。迎えに行くから」
『うん!じゃー●●の案内板の所にいるー!』
「ああ」
どうやらうまく辿り着けたらしい。俺様の誘導のおかげでな。電話を切り、ジローを迎えに行くため俺様は歩き出した。