【短編】

□見舞いと看病
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二階に上がると凶暴ですの部屋はすぐに見つかった。びっくりさせないよう小さくノックする。

「…はーい、入っていいよ」

しばらくして小さな声が返ってきたのでゆっくりと慎重に扉を開ける。正直に言おう。かなり緊張している。それもそうだ。彼女の生活の中心とも言うべき空間に押し入ろうとしている訳なのだから。

「ふふっ、もっと堂々と入ってくればいいのに」

「そ、そういう訳にもいかないだろ。…思ったよりも元気そうだな。安心した」

意識は覚醒しているようだが、パジャマを着て、分厚い布団をかけて横になる凶暴ですはまだ顔色がよくなかった。汗をかいたのか額に髪の毛がへばりついている。さっきまで寝ていたんだろう。

「うん。解熱剤飲んだら少し楽になったから。あ、キョンくんこれつけて」

そう言って、箱から取り出したのはマスクだった。ああ、こいつをつけて移らないようにしろって言いたいのか。こんな時まで人の心配をするかこいつは。悪いがこんなのは不要だ。俺は当たり前のようにそれを箱に戻す。

「なめてもらっちゃ困る。俺はお前如きの風邪なんかを移されるような体質じゃないんでね、必要ないんだよ」

「あらあら、ふられてしまったマスクちゃん」

何言ってんだ、と笑いながら凶暴ですの額にへばりついた髪を優しくかきあげてやる。そして傍にあったタオルで不器用ながらに汗を拭いてやると、凶暴ですはおとなしく目を閉じた。
そんな凶暴ですを目を細めて見つめる。こいつのこんなに弱々しい姿。人間だし熱くらい出すというのは重々承知の上だが、やはり見ていて気持ちのいいものではなかった。

「そういやさっき解熱剤飲んだって言ったな。相当汗かいたんじゃないか?着替えたのか?」

「ううん…」

「そのままじゃ体が冷える。今着替えを持ってきてもらうから待ってろ」

立ち上がろうとした瞬間、俺はシャツを握られ凶暴ですに止められた。半分しか開いてない目に、火照った頬の顔の凶暴ですに見つめられると、何だか妙な気分になった。

「着替えなら、そこにある」

指さす方向を見ると、新しいパジャマがきれいに畳まれて置かれていた。お母様が持ってきたのだろう。俺はそれを取ると、凶暴ですに握らせる。さすがに女子の着替えを手伝うわけにはいかないので上体を起こすのを手伝うまでにしておいた。一人では辛いだろうからまずお母様を呼ぶ必要があるな…そう思ったのと同時にコンコン、と控えめなノック音がして、扉が開かれた。

「ジュース持ってきました。ここに置いておきますね。凶暴です、新しいスポーツドリンク持ってきたから」

ちょうどいいところに入ってきました。お母様、凶暴ですの着替え、手伝ってやってもらえないですか。

「あ、そうですね。じゃあ、着替えさせちゃいますね」

「じゃあ、俺は外に出てますから、着替え終わったら教えてください」

俺は一旦振り返って、目があった凶暴ですに微笑みながらゆっくり扉を閉めた。
中からは奇声なんて聞こえない。脅すような変態な発言も聞こえない。部室とは大違いだ。だが、俺だって腐っても男だ。彼女が一枚板を挟んで着替えをしているとあれば、色々と想像してしまうのは否めない。いや、ダメだ。落ち着け俺。こんな時に俺の脳よ、余計な活性化をするな。頭を勢いよく横に振ると、扉が開く。お母様が出てきた。

「お待たせしました。じゃあ、凶暴ですをよろしくお願いします」

笑顔でそう言うと、ルンルン気分で階段を下りて行った。やはり愉快なお方だ。
中に入ると、座ってスポドリをガブガブ飲む凶暴ですがこちらを見ていた。新しいパジャマに身を包み、どこかさっぱりしたような雰囲気が漂う。俺ももらったジュースを手に取り、
凶暴ですの横に座った。

「なんかごめん」

凶暴ですがボソリとつぶやく。

「何が」

「看病までさせてしまって。その…私今あんまり清潔じゃないし、ここ空気悪いしさ」

「そりゃ病人なんだからそうなっちまうだろうよ。そんなこと気にするな」

しばらく沈黙が続き、やがて凶暴ですは肩を俺に寄せてきた。病気になると人肌が恋しくなると言うが、まさに今こいつは恋しがっているのだろうか。そう解釈して俺は凶暴ですの頭を自分の肩に乗せた。

「ありがとう。…でも、こういう姿は好きな人にはあまり見せたくないものだ。ブサがいつも以上にブサだから」

「何言ってんだ。凶暴ですはどんな姿でも凶暴ですだろ。中身が変わるわけじゃない。変な心配はするな」

よしよしと頭をなでてやると、うっ、と苦しい声を出したので、慌てて手を引っ込める。頭痛いってのを忘れてた。

「そういやキョンくんて、看病するの上手だよね。お母さんみたいだった」

スポドリをまた口に含みながら感心したように言う。そうか?俺は普通にやってただけなんだがな。まあ、強いて言うならあれかね。

「妹が熱出した時の看病は大体俺がやってたから、もしかしたらそれかもな」

「おお、そうかそうか。妹さんの看病か、道理で手慣れていたわけですな」

俺は感心している凶暴ですの額に手をあてた。ん、ちょっと熱上がってきたか。持っているドリンクを取り上げ、ジュースと一緒に机に置くと、凶暴ですを寝かせた。
病人はあまり起きてるもんじゃない。
そしてふと持ってきたものを思い出すと、鞄から包みを取り出した。SOS団代表の見舞い品、チョコレートと飴だ。凶暴ですに渡すと、案の定喜んだ。良かった良かった。

「新作のお菓子!へえ、あの涼宮さんが…学校行ったらお礼言いに行かなきゃな。他の人たちにも」

「ああ。元気な姿を見せてやれ。ハルヒも心配してたからな」

布団に入ってまもなく、しゃべり疲れたのか凶暴ですはそのまま目を閉じ眠ってしまった。スースーと穏やかな寝息を立てる凶暴ですの顔はひどく安心しきっていた。
いくら俺とは言え、男である俺の前でこんなに無防備に…と思ったが、それだけ俺はこいつにとって心の許せる相手でだと思われていると分かり素直に嬉しいと思った。
もし俺が病気で倒れたら、お前も俺をこうして看病しに来てくれるか?
その答えはもう分かりきっている。

近くに転がっていたペンと紙に言伝を書いて机に置いておく。そして俺は電気を消すと凶暴ですの部屋を出た。

そして帰り道は今日のSOS団の臨時欠席の分の埋め合わせをどうするかという難題に徹することとなった。




『早く元気になって学校来いよな。男3人で囲む昼食ほど虚しいことはない』

















おわれ




無駄に長いなコレ一体どうしたんだ!しかもスケールちっさ。しかもキョンじゃねえ!誰だろう誰かしら
不思議な現象が多々起こっていましたが、ここまでお読みくださりありがとうございました。

2012.9.10
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