【短編】

□見舞いと看病
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授業が終わって昼休みに入った。俺は鞄から弁当箱を取り出すとおもむろに立ち上がって教室を出た。
目指すは2つ離れたあいつの教室。中をさりげなく覗いて凶暴ですの姿を探していると、後ろから声をかけられた。

「あ、今日は私の愛馬は休みだよ」

振り返ると、凶暴ですといつも一緒にいる友達であった。次の授業の準備であろうか、大量のプリントを抱え込んでいる。

「休み?何かあったのか」

「熱出したみたいでさ。昨日から頭痛いって言ってたから…。なに、知らなかったの?」

眉を逆八の字にして吊り上げながら俺をにらみつける。いやいや、俺はそんなこと一言も聞いてないぞ。頭が痛いなんて昨日下校中に一言も口にしちゃあいなかった。
しかし現にこうして学校を休んでるくらいなわけだから相当重症なんだろう。くそ、普段元気なだけにいきなり連絡もなしに休まれるとこっちの調子が狂うぜ。

「…まあ、私の愛馬はのことだしすぐに回復してまた学校来るよ。じゃあね」

「あ、ありがとな」

振り向きざまに苦笑いで返す凶暴ですの友達を見送った後、俺はひとつため息を吐き、ポケットから携帯を取り出した。もちろん連絡は来ていない。何で何も教えてくれないんだあいつは。と、今更文句を言っても仕方がない。

今寝てるよな、きっと。起き上がれないくらいだるい状況だとしたら、電話しても出られないしただ迷惑なだけだよな。メールにするか?いや、送ったところで読めなりゃ意味がない。
…まあいい。読めなくとも電話するよか病人にとっちゃ都合がいいだろう。


To 凶暴です
Sub non title

熱があると聞いてメールしたんだが。大丈夫か?
放課後見舞いに行こうと思ってる。その…もし嫌だったらお母様に断るように言っておいてくれ。

返信するのはきついと思うからしなくていい。

それじゃ。




こんなもんでいいかな。何つか、まわりくどい言い方になっちまったが、これが俺の中での最高の思いやりだ。パチンと携帯を閉じると、今日は仕方がないから野郎共と一緒に飯を食うか、と自分の教室へ向かった。







掃除の時間になり、俺はいつも以上に不真面目に掃除を終わらせると、今にも教室から出ていこうとしているハルヒに慌てて声をかけた。

「悪いが今日はそっちには行けない。いつか埋め合わせはする。良いか?」

ハルヒはずいっと効果音が出そうなほどに俺に顔を近づけると、目を細め口を突き出し不審そうな顔をした。お前、他の奴にはそんな変な顔しない方がいいぞ。

「理由を言いなさい。ただし不純な内容だった場合には即刻強制的に連れて行くから」

ハルヒのことだ、そう来ると思ったぜ。

「…凶暴ですが熱出したから、見舞いに行く」

それを聞いたハルヒは、俺のネクタイを引っ張っていた手をパッと放すと表情を曇らせた。根はやさしいこいつのことだ。病人を放っておけと言うような奴じゃない。

「あ…そうなの。ごめんね、正当な理由だわ。いいわ、治るまでついててあげなさい」

「ああ、そのつもりさ」

帰り際にこれ、とハルヒに渡されたチョコレートと飴を鞄に入れる。へえ、こんなもん持ってたのか。

「あんたは食べちゃだめよ。SOS団代表としてのお見舞い品なんだからね!」

ただのチョコレートと飴でずいぶんと大層に代表としての見舞いと銘打ったもんだ。まあ、ちゃんと凶暴ですには届けておくさ。あいつもきっと喜ぶ。
ありがとな、と言って俺は学校を出た。毎日一緒に帰っているこの道も、今日は一人だ。何だかんだ言いつつも隣に凶暴ですがいないのは少々さびしいものだった。
長い間この走りというものに自分の足を使うことはなかったが、今日だけは無理にでも動かす。凶暴ですの顔が一刻も早く見たいから。











「あ、キョンくん?わざわざ来てくれてありがとうございます。凶暴ですが待ってるから、行ってあげてください」

私の愛馬は家のインターフォンを鳴らし、俺だと確認すると、すぐに出てきて俺を招き入れてくださった。どうやら凶暴ですは許可してくれたようだ。どうでもいいが、お母様にちょっと似てる…な。
失礼します、とつぶやくとお母様がスリッパを出し俺を見ながら愉快そうに微笑だ。つまり二ヤけていらっしゃった。一体何事だ。

「こんなにかっこいい人が凶暴ですの恋人なんて、あの子も中々やるわねえ!でもご迷惑かけてたりしてませんか?わがまま言ったり。嫌になったら別れて下さって良いんですからね」

テンションの高いお方だ。まだまだ長生きできそうな活力のあるおばさま。こういう母親が家庭の明るさの源であるのに間違いない。
しかし後半は結構不吉なことをおっしゃっていたが、とりあえず言っておこう。

「いえ、別れるつもりはないです。凶暴ですさんが別れるって言い出しても離れるつもりないですよ、俺は」

きっぱりと言い切った俺をしばし目を丸くして見つめると、ふわりと微笑んで、

「ありがとうございます。娘をどうかよろしくお願いします。あ、あとでジュース、持っていきますから、部屋に先に行っていてください。二階の奥ですので」

そう言うと、静かにリビングに消えていった。その後ろ姿を見つめながら、先ほど自分で言った言葉を脳内リピートして恥ずかしさのあまり顔を手で覆った。何てこと言っちまったんだ。

やれやれ。凶暴ですが絡むといつも以上柄にもなくアツくなるようだ、俺は。












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