【短編】

□平和な国でまた
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「あのー、皆さん。今から買い出しに行くので、買ってきて欲しいものはここに書いておいてください」

私たち近衛騎士団の集う部屋にそう言いながら入ってきたのは、同じアリティア軍に所属する凶暴ですだった。私は彼女のことが少し前から気になっている。極端なことを言えば好きだ。だけど私は、戦争が終わるまではこの想いは胸にしまっておこうと思っている。理由は凶暴ですのため。彼女の生活を私の一言で壊すことは絶対にしたくないと思っているからだ。

入り口を見るともう既に凶暴ですの姿はなかった。通路ですれ違った他のメンバーにも同じことを言っているようで、その声がこの部屋にも届いて響いた。

「凶暴ですってえらいよなぁ。自分も前線で戦う身なのに俺たちの身の回りのことなんか大体やってくれてるもんな。良い嫁になるぜ〜…俺の」

「…最後の一言は余計だな。ルーク」

極力冷静に言ったつもりが思った以上に冷たい言い方になってしまったようだ。ルークが笑顔を引きつらせて固まっている。私はそんなルークの肩にポン、と手を置いて、もらった紙に必要な武器とアイテムを書き出していく。こんなものか、と紙を見直し軽く息を吐くとそれを持って部屋を出た。きっとまた凶暴ですは一人で買い出しに行こうとするに違いない。

「はい、了解しました」

「私もついて行こう。凶暴です一人では大変だろう」

何人かの人からメモを受け取り一枚一枚チェックしていく凶暴ですに私は後ろからそっと声をかける。全く。買い物なら私を頼っ…いや、私でなくても良いが、誰かに手伝ってもらうなどして欲しいものだ。この際ならばルークでも許そう。

「あ、ロディくん。今日はあまり多くならないみたいだから大丈夫だよ。ありがとう」

と言いながら集めたメモをリュックにしまう。多くはならない、なんて嘘は私には通じない。前回の戦争では山賊がかなりの数襲ってきて、剣を扱う人間を大いに苦しめた。私も例外ではない。メモを盗み見ても分かる通り、剣類ばかりが書かれていた。

「いつもとそう数は変わらないな。私も馬を出す。表で待っていてくれ」

「ロディくん?」

凶暴ですの役に立てるだけで、今は満足だ。今はそんな関係でも良いと思っている。むしろ、こういう日常を居心地良く感じている。私は愛馬の待つ小屋へと走った。




表で待っていると凶暴ですが大きなリュックを背負ってやってきた。何故そんなに大きいのかと問えば、傷薬の注文が普段以上に多かったと言う。私は凶暴ですの肩からその大きいリュックを半ば強制的に下ろさせると、自分でそれを背負った。女性用なのか私の体格にぴったりという訳にもいかなかったが、凶暴ですの小ささを改めて実感した。

「なんだか申し訳ない…。何もかもやらせてしまって」

「気にするな。私が勝手にやっているだけだ。それでは行こう」

街に近づく度に人々の話し声も大きくなっていった。私たちのような軍人や、村人や商人が、もうじき夜になろうとしているこの時間にしては大変な賑わいを見せていた。こんなことは珍しい。夜は大抵軍人が翌日の身支度の為に少々出没するくらいだ。辺りを見回しながら歩いていると、ある会話が耳に入ってきた。…どうやら花火大会が行われるらしい。隣でメモを見つめる焔に、周囲の声にかき消されぬように話しかける。

「これから花火が上がるらしい。だから人々がこうして集まっているみたいだ」

「花火かあ…この時期にやるのか…。確かに気温も丁度良いし、絶好のチャンスだね」

目を丸くして驚きを見せるのも束の間、すぐにメモに視線を戻し「あれ、どっちだったかな」とつぶやき始めた。どうやら地図を見ているらしい。私は凶暴ですの頭上からそれを覗きこみながらここはあっちだと指をさす。

「あっ、あぁ、あっちね。うん、了解した」

そう言うなり足早に武器屋へ向かう凶暴ですを見て俺は微笑んだ。慌てる様子を見るたび可愛い、と思えてしまう自分は思ってる以上に凶暴ですに溺れているらしい。あまり急ぐことはないと声をかけるが聞こえていないのかどんどん先へと行ってしまう。その時凶暴ですの前からもの凄い勢いで走ってくる人物を目にした。すぐさま凶暴ですを見るが、うつむいていてその人物には気づいていないようだった。私はその瞬間走り出していた。

「凶暴です、危ない!」

「え?うああ!」

ドンッと鈍い音がして、凶暴ですが後ろに倒れそうになるのをどうにか抱き留めて防いだ。何が起きたのか分からない、といった表情をした凶暴ですが俺を見上げている。

「大丈夫か?よく前を見ていないと危険だぞ」

「ごっごめん…私ったら何してるんだ…。今度から気をつける」

「もう一人でさっさと行かないでくれ。私の心臓がもたない」

凶暴ですを立ち上がらせると、さりげなく手をつなぐ。抵抗されるかと思ったが、すぐに握り返してくれた。その行為に答えるように私も更に握る手に力を込めた。





必要なもの全てがそろい私たちは街を出て帰路についていた。先ほどまで騒がしかった周囲も、森の入り口まで来ると静寂に包まれる。辺りもすっかり暗くなってしまったので、持ってきたランプに火をつけ馬の首にさげた。少し時間はかかってしまったが、凶暴ですを二人きりで出かけることが出来てよかった、と心の中で何度も思った。そして、凶暴ですもそう思ってくれていたらいいと願ってやまない。

遠くでバーンという大きな音がした。私は反射的に身構えるが、振り返った先に私が見たものは、武器を持った敵でもなく盗賊でもなかった。同じく身構えて振り返ったらしい凶暴ですもその光景に緊張感を和らげた。

「あー綺麗だね!久々に見たなあ」

「…そうだな。すごく綺麗だ」

上がっては消え、上がっては消えを繰り返す様々な色の花火に私たちは目を奪われた。戦争の間は絶対に見られないと思っていたもの、その一つが花火だった。しかしこうして大輪の花を咲かせている。愛しい女性と共にいる目の前で。

「戦いが終わった後、また花火見られたら…嬉しくて泣くなあこれは」

「ああ、また見に来よう。私たちの手で平和にしたこの国で…必ず」








おわれ


花火…FEの世界に花火があるとは思え…ない。


2012.8.27

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