【短編】

□貴女に見ていてほしくて
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アーガマの食堂の中。私の向かいには、がっくりとうなだれている凶暴ですがいた。

大事な話がしたいと言うのでついてきてみればこの有り様。でも大体想像はついている。

「エマ中尉…やっぱり諦めきれないみたいです」

「だったら早く告白しちゃいなさいっていつも言ってるでしょう?」

「…そんなー。だって、無理ですよ普通に考えて」

「無理かどうかはやってみなきゃ分からないじゃない」

「…もう結果は目に見えてるんで」

さっきからこれの繰り返し。さすがに疲れてきた。いくら可愛い後輩でもこればかりは甘やかしちゃいけない。

「だったらもう私に相談しても意味ないんじゃないかしら。凶暴ですがその気じゃないなら、アドバイスする余地はないわ」

じゃあね、と言って席を立とうとして腕を思いきり引かれる。今にも泣きだしそうな情けない顔をして私を見つめている。

あぁ、またこの子は…凶暴ですに分からないように苦笑して、しかしやんわりと手を離す。

「これは大事なことだと思うの。恋って色々な障害を乗り越えてこそ手に入れられるものなのよ。凶暴ですにだったら出来るわ」

と言い終えたところで、食堂に入ってきた人物に気付く。私は絶好のチャンスとばかりにその人物に声をかけた。

「カミーユ!ここの席空いてるからいらっしゃい」

さて、これで少しは進展すると良いんだけど。凶暴ですを見ると、案の定目を見開いて固まっていた。その姿があまりにも面白くて思わず笑ってしまいそうになったけど、それを抑えてこっそり耳打ちする。

「ほら、頑張ってね。良い報告を楽しみにしているわ」

「……」

「エマ中尉、ここにいたんですか。凶暴です少尉も」

「お昼だったのよ。じゃあ私は行くから。凶暴です、また後でね」

まさかのカミーユの登場に慌てふためいている凶暴ですにそう言い残して食堂を出た。

何て言うか…もう少し自信を持ってもいい気がするのよね、あの子は。
















カミーユくんはいきなり現れるわ、エマ中尉はいなくなっちゃうわ…今日に限って二人きりだわでもうどうすればいいか分からない。

大体エマ中尉…お昼休みはまだあるって言うのに颯爽と戻っちゃうし。ガキの恋愛沙汰にかまってる暇はないのよ〜なんて言われた気がした。

カミーユくんがトレイを運びながら「ここ、借りますね」と言って私の向かい側に座った。


「あれ、凶暴です少尉はもう食べたんですか?」

「あ、あーうん。結構前に来てたから…」

「すいません、僕付き合わせてますよね。すぐに食べちゃうので」

と言って急いで食べようとするカミーユくんを慌てて制す。

「いやいや!そんな急がなくても大丈夫だよ!ゆっくり食べて」

その瞬間バチっと目が合った。少しの間見つめあっていたが、恥ずかしくなって私の方から目を逸らした。

やばいな、ご飯食べてる姿までもかっこいいと思ってしまう私はかなり重症だ。顔が熱い。頬の熱を冷ますように私はさりげなく手で覆う。

「凶暴です少尉は、優しいな。普通なら叱られててもおかしくないのに。ご飯は噛むな、飲み込め!って。エマ中尉とは大違いだ」

「そんなことないさ。エマ中尉、最近は優しいでしょ?カミーユくんの働きを一番見てくれてるのもエマ中尉だよ、きっと」

はは、どうなんでしょう、と苦笑するカミーユくんに私は微笑む。最初感じていた緊張も大分和らいだ。

「凶暴です少尉は…」

「ん?」

スプーンを置いて、真剣な表情のカミーユくんが私を見つめる。また激しくなる心臓の音に耐えられなくなってくる。

「凶暴です少尉は僕のことどう思ってるんですか」

「え…」

「戦場にいる僕をどう思ってますか。戦場でMSに乗る僕のこと、怖いと思ってますか?人殺しだと思ってますか?」

「ちょっちょっと待って」

私の制止、も聞かずそのまま話し続けるカミーユくんに面食らう。

「少しは死んでほしくない、とか心配…してくれてますか?」

「……」

「父も母も死んで、悲しみにくれることも出来なかった僕を励ましてくれたのは凶暴です少だけ尉でした。すごく嬉しかったんですよ。家族がいなくなっても戦争してるんだから当たり前だって皆が言う中で、あなただけは俺のことちゃんと考えてくれましたよね」

お父さんやお母さんを目の前で殺されて、それでも感情を持ち込まずに戦争をし続けなければならないなんて人間到底できることじゃない。ましてやカミーユくんはまだ子どもなのだ。でもZの能力を最大限に扱うことが出来るのは確かに彼しかいない。彼は皆から必要とされているのだ。だからせめて私一人だけでも…と思っての行動だった。おせっかいかなと思ったけど、放っておけなかった。

「だから俺、もっとホ凶暴です少尉に見てほしいと思って頑張ってきたんです。ブライト艦長でもなく、クワトロ大尉でもなく…エマ中尉でもなく。他の誰でもない凶暴です少尉に」

「カミーユくん…。…ありがとう」

そんな風に思ってくれていたなんて、思いもしなかった。ただただ素直にうれしい。それでもやっぱり照れる気持ちもあり、心臓もドキドキしてる。

でも、私はカミーユくんがここに初めて来たときからずっと見てきたつもりだ。何せ一目惚れだ。そんなこと言ったらよく思われないと思うけれども。

カミーユくんはまだ湯気の立っている食事をまた食べ始める。しかし私をチラリと見ると、自分の口に運ぼうとしていたスプーンを私に向けてきた。

「あーんしてください、凶暴です少尉」

「え!?そ、そんないいよ…」

「僕もうお腹一杯なんで、手伝ってください」

顔が真っ赤になるのを感じ顔を背けるも、カミーユくんがスプーンの先でちょんちょんと私の唇を優しく突ついてくる。
な、な、なっ…

「ほら…凶暴ですさん」

そう囁くように言われ、周りの目を気にしつつ口元にあるスプーンを遠慮がちにパクリとくわえる。カミーユくんは満足したのか、普段はあまり見せない笑顔を私に向けてくれた。私はと言えば、あまりの恥ずかしさにそんな笑顔を向ける余裕はない。

いわゆる間接キスをしてしまったというのに、彼はその…平気っぽいのだが大丈夫なんだろうかその辺は。

「あの凶暴ですしょ…」

ちょうどその時、戦闘態勢に入るサイレンが艦内に鳴り響いた。私は反射的に時計を見る。カミーユくんも残ったご飯をかきこんでいるところだった。

「前回の出撃からそう時間は経っていないはずなのに…油断しているところを突くとはやるな」

「凶暴です少尉。さっき言ったこと、忘れないでくださいよ」

「うん。もちろん忘れないよ。ちゃんと見てる」

そう言うと、カミーユくんは微笑んで、いってきますと食堂から出て行った。

さっきまでカミーユくんが食べていたトレイがが目に入る。数分前のことを思い出して再び顔が熱くなる。あれは…ほんの挨拶ってことで良いんだよね…深い意味なんて…あるわけないじゃないか。ぶんぶんと頭を振って一人慌てふためいている自分を制御する。そうだ、今は戦闘中なのだから浮かれている場合ではない。急いで床を蹴って食堂を後にした。



おわれ


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