文〜2〜

□幽鬼
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「ここはジュビア達が」

そう言うと、ジュビアが一歩前へ出て、妖精の紋章を見せ付ける様に左足を構えた。
その隣に、ガジルが好戦的な笑みを浮かべて立つ。

「てめえら、横取りすんじゃねえぞ」
「ガジル!」
「お前達だけではダメだ!このまま置いて行けるものか!」
「大丈夫ですから、グレイ様…皆さん、どうぞ先へ進んで下さい」

躊躇うエルザ達の背中を押す様に自信に満ちた笑みを浮かべて、ジュビアは先へ進む様に促した。
それまで無言を貫いていたグレイは、見開いた青色の瞳を視線を合わせるとジャリ、と地面を踏みしめ、エルザやレビィの肩を掴み「行くぞ」と、体を正面に向けた。

「絶対に追い付いて来いよ」
「はい!」

再会を誓う言葉でグレイと短い別れを済ますと、ジュビアは走り去っていく仲間達の背中を見送った。

「アイツ等が居たんじゃ、まためんどくせえ事言いだしそうだからな」
「でも殺しちゃだめよ、ガジル君。程ほどに」
「てめえこそいい加減、“いたぶる癖”どうにかしろよな。一思いに殺ってやる分、俺の方がマシだっつーの」

二人になったガジルとジュビアは、まるで敵の存在など目に入っていないかのように、いつも調子でやりとりをする。
が、“フェアリーテイルの仲間”というストッパーが居なくなった事で、その言葉の端々には冷たい響きが見え隠れしていた。


「舐めやがって…っ。行かせるか!」

ここで全員殺してやる、と叫びながら激昂した男は、両手に魔法陣を描くと、脇をすり抜け先へ進もうとするグレイ達に矛先を向けた。

「余所見はだめよ!」
「っらあ!!」

すかさず作り出した水流でジュビアが男の視界を阻み、ガジルの肘から伸びた鉄竜棍が鈍く光りながら、男の頬を打ちつける。
がは、と肺の中の空気と共に血を吐きながら吹き飛び、ボタボタと地面に血だまりを作る男の前に立ちはだかると、「てめえの相手は俺だ」と、ガジルは準備運動とばかりに腕を回した。

「毛色が違う様だな」

一対多数の容赦ない攻撃を躊躇うことなく繰り出す二人に、冷静に高みの見物よろしく傍観していたもう一人の男が、静かに呟いた。
二人の視線が鋭さを増しながら、今伏したばかりの男と比べ物にならないオーラを放つこの男を捉える。
深海にも似た冷たい青い瞳と、不吉な赤い月を移した様な禍々しい赤い瞳が、夜の森の中に浮かび上がる。

「ジュビア達は元ファントムの魔導士」

質問に淡々と答えると、男はにやりと怪しげに笑った。

(なるほど…。あのファントムの残党か)

闇ギルドにも勝るとも劣らない暴力性と人道外れた数々の行いは、男の耳にも入っていた。
フェアリーテイルとの全面戦争で敗北した過去があるとは言っても、あの闘いがもし命のやりとりをかけた殺し合いだったならば、軍配はファントムロードに挙がっていただろう。
冷酷で残虐。そして手段を問わない。
これが闇の世界でも名を馳せ、一時は大陸一にまで上り詰めたファントムロードで教え込まれた処世術だ。
『魔法評議院の手前、戦争といっても一人も死人を出す事が許されず、“手を抜いた”結果、フェアリーテイルに負けた』というのは、裏の魔導士の間では有名な話だった。

今でこそフェアリーテイルの懐の深さに生かされ、同世代の仲間達に感化され、彼等と遜色ない生き生きとした表情をするようになったが、二人は紛れも無くファントムロードの主戦力だった人物なのだ。
未だ仲間の誰にも話せない様な重い罪を犯してきたその手は、血に塗れ汚れていた。
だが…

「魔導の闇に堕ちた事のあるモンじゃねえと務まらねえ役目もある」
「外道には外道がお似合いだわ」

どれほど今を真っ当に生きようと過去が消え去るわけではないという事は、痛いほど分かっていた。
だからこそ、自分達が闘うのだ。
フェアリーテイルの矜持や流儀が通用しない非道な敵が立ちはだかった時に、仲間達のキレイな手が汚れずに済む様に。
その為なら、もう一度この手を闇に染めることなど厭わない。

「覚悟しとけや。性根は毒されても、俺等はフェアリーテイルの様に甘くはねえ…!」

幻想や夢は、先へ進んだ仲間達に預け。
二人の胸にあるのは、ただ一つの覚悟だった。


〜続かない!(笑)〜

二人のセリフが全てです。外道は外道の手で葬る、みたいな。るろ剣の人誅編の蒼のイメージで。
こんなダーティーな二人が見たい…。幽鬼コンビが好きすぎて困る。
グレイからの(→)ジュビアに関しては、無言の信頼というか、心配する事がジュビアを侮辱する行為だと思う位、彼女を尊重してるって感じで。
レビィちゃんは天使なので、ガジルが心配でしょうがないんだと思います。ホント可愛いな、オイ。
本来ならフェアリーテイルの流儀に乗っ取って、正々堂々闘ってまっとうに勝利する方がカッコいいと思うけど、こういうのもアリかなと。
まあ結局のところ、この二人なら心配ないだろうってエルザ達が判断する位、強く恐ろしい二人を書きたかっただけです。

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