文〜2〜

□その心に寄り添ってくれたから
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※先週の本誌展開上、恐らく次話でジュビアvsキースが来て、そこでジュビアは迷いながらもキースを倒すだろうと思い、その後の二人を勝手に妄想した結果が以下文。


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普段なら、グレイの姿がそこにあればすぐにでも駆け寄るのに、戻ってきたグレイの元に、ジュビアが行く事は無かった。

「グレイ…」
「こっちも終わった。これでもう、フェイスが起動することはねえだろう」

ナツの呼び掛けに答えながら、グレイは彼等から数メートル離れた場所に居るジュビアに視線を移したが、俯いたままのジュビアがグレイを見ることは無かった。
服は破け、露わになったジュビアの肌には、痛々しい傷がいくつも出来ていたが、痛さなど感じなかった。
痛みは、もっと別の場所に存在していた。
そして、ジュビアの心など比にならない位にグレイに負わせてしまった傷は深い。
泣いていい立場でもないのだと言い聞かせていたため、涙も止まっていた。

一体どんな顔で会えばいいと言うのだろう。
唇を噛みながらジュビアは、消滅してしまったシルバーの事を思った。
悲痛に顔を歪めるジュビアの元に歩み寄ると、グレイは静かに目の前に立った。

「俺達親子の事に巻き込んじまって、悪かったな。お前は関係ないのに、酷なモン背負わせちまった」
「…いいえ……いいえ…っ!」

語尾を強め、そんなことは無いのだと、首を振ると、グレイは「ありがとな」と小さく笑いかけた。


――嬢ちゃん…ありがとな


ジュビアがキースを倒した時のシルバーと重なる、優しい声。
二人から向けられた感謝の言葉が、ジュビアの心を締め付けた。
礼を言われる事など何もしていない。
グレイから大切な者を奪った事に変わりなく、これが本当に正しかったのか、今でも受け入れる事が出来ないのに。
言葉にならない思いが、幾筋にもなって再びジュビアの瞳から流れ落ちた。

「っ…――うあああああ!!」

辺りにジュビアの悲痛な叫びが響き、その場に居たナツとガジルも、悔しさを顔に滲ませた。

「ジュビアが…ジュビアがグレイ様のお父様を…っ!!」

すでに十数年前に命は尽き、人間としての生は終わっていたとしても、キースに操られていたシルバーの体には、紛れも無く彼の魂があった。
再び親子で生きる道もあったかもしれないのに、フェイスの起動を止める為にキースを葬り、その結果シルバーの命を終わらせてしまった。
内心ではもうグレイが今までの様に自分に笑いかけてくれないかもしれないと、覚悟していたのに、彼は今までと変わらぬ笑顔をジュビアにくれた。
そんな優しい人の、肉親を奪ってしまったことが、ジュビアを更に苦しめた。

「ごめんなさい……ごめんなさい…っ…グレイ様…。………ごめ…なさい…っ…」

泣きながら自分を責め続け、顔を手で覆うジュビアは、今にも悲しみに崩れてしまいそうだった。
視線を落としたグレイは、その心ごと受け止める様に、小さな体を引き寄せた。

「う…ぅ……ジュビアのせいで…」
「もう何も言うな」
「……なさ……ごめんなさい…」
「ジュビア…」

グレイの言葉ですら、ジュビアは受け入れようとしなかったが、それでもグレイは言い聞かせるように彼女の耳元へ顔を寄せ、抱きしめた腕に一層強く力を込めた。

「お前が謝る必要はねえ。これは親父が望んだ事なんだ…」

空を仰ぎ、散る寸前の父親の事を思い出せば、父は最期満ち足りた表情をしていた。
シルバーはずっと、縛り付けられた魂と、悪に染められた肉体からの解放を願っていた。
その上で、もう二度と抱きしめる事も出来ないと思っていた息子に看取られながら、その腕の中で死ねる事に、彼がどれ程幸福を感じていたか、グレイには分かっていた。

「最期、親父の意識が流れ込んできて分かった。親父はお前にも感謝してた。まるで自分の事の様に怒り、泣いてくれた事。そして――」

“お前がずっと俺の傍に居てくれた事も”

「お前には、嫌な思いさせちまったけど、俺はキースを倒したのがお前で良かったと思ってる」

すでに肉体と意識が限界を超えていたシルバーは、あのままいけばキースの傀儡の術によって心の無い動く屍と化し、グレイをその手に掛けていたかもしれない。
心を打たれ、涙を流しながらも、グレイを信じ、二人の親子の絆に賭けてくれたジュビアだからこそキースに打ち勝つ事が出来た。

「お前に親父を会わせられて良かった」
「…っ……ぅう……」

グレイの言葉に耳を傾けていたジュビアの目から、また止めどなく涙が溢れた。


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〜おまけ〜


暫くして、グレイの腕に包まれたジュビアがそっと呟いた。

「ジュビアも……会えて良かった…」

涙はもう止まっているようだったが、もう少しその体を支えてやりたい気持ちがあり、グレイはその体を離せずにいた。


「俺の生まれ故郷に、お袋の墓があるんだけど、全部終わったらそこに…親父の形見を埋めてやろうと思ってんだ。今度はちゃんと、お袋と一緒に眠れるように」

グレイが幼い頃に建てた両親の墓は、シルバーが建てた墓標とは別の場所にあった。
デリオラの襲撃によって母は死に、父親であるシルバーの遺体は当時見付からないままうやむやになっていたが、後にグレイの師となったウルの進言で、村があった場所に墓を建て、二人を弔ったのだ。
かつては家族の団欒が灯り、今は母が一人眠るその場所。
そこで、十数年間グレイと妻の為に自らの手を汚しながらも、目的を果たすために闘い続けた父の魂を休ませてやりたかった。
それに生前シルバーは、自身の妻であるミカの元へ行きたいと願っていた。
当の本人は、もうとっくに愛する妻に再会しているかもしれないが。

「お前も来るか?住んでた村はもう無いし、年中雪が降ってる山間部だから、ただ寒いだけかもしれねえけど―――」

お袋に会いに…。
グレイは最後、そう続けようとしたが、すぐさま返されたジュビアの返事によって、それは言葉にされる事は無かった。

「喜んで。是非ご一緒させて下さい…!」

(ああ…きっと深く考えてねーんだろうな)

今はもう二人とも亡くなっているとは言っても、親に異性を紹介するという行為が、一般的な両親が存命のありふれた家庭に生まれた者なら、どんな意味を持っているかはすぐに検討が付くのに。
これだから、魔導士という生き方は、ほとほと苦労する。
つい溜め息をつきたくなったが、やっと顔を上げてくれたジュビアのはにかんだ笑顔に、自然とグレイの顔はほころんでしまった。


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※次ページにおまけのおまけ話有。
上記のシリアスとは違う毛色の軽い展開で、シルバーさんが、あんきちの妄想によって、陽気なおもしろ親父になってます。
大丈夫な人はどうぞ…
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