文〜2〜

□世界が壊れる音
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「ナツ…。よりによって…」

雪色と桜色が入れられている牢が見えなくなったとこで、俺は呟いた。
まったく厄介なヤツが踏み込んできたもんだ。

思い出した様に、額から左のこめかみにかけて刻まれた傷に手をやり、確かめながら指でなぞったのは、確認の為だった。
大きな半月型の傷の下に、忘れられたように刻まれている曲線は、18歳の時のクエストで負った古傷だ。
悪魔払いと呼ばれる俺にとって、初めての退魔かもしれない。
今の俺は、そこから数十年歳をとった、未来の俺だ。

ナツが見知っている傷は、新しい傷で丁度隠れているから、傷跡で俺の正体がバレることは無いだろう。

だが滅竜魔導士は鼻が利く。
そんな事もう随分と忘れていたが、もしかしたら匂いで何か気付いたかもしれない。
こういう勘だけは良い奴だ。
布切れなんてやらずに、放っておけばよかったと、軽く後悔した。


けれど、桜色と雪色を見るのは何十年振りだったから。


リサーナの忍びない姿を見るに見かねたというか。
ナツが裸同然で他の女と昼夜を過ごしたと金色の彼女が知れば、さぞかしショックだろうと思い、つい、服を投げ入れてしまった。
昔は俺が、『服を着ろ』と周りから注意されていた側だったのに。


久しぶりに、かつての仲間と会い、忘れていた思い出を思いだしたせいか、こめかみの傷がズキリと引きつった。

昔、『目に見える方の傷なら、どれだけ増えたって構わない』なんて、気障なセリフを口にした事があったが、本当にそうだと思う。
目に見えない場所の傷は、治らない。
どれだけ時が流れても、大事なモンを失くした心の痛みは消えない。


「『お前一体何者なんだ』…か」

先程ナツに投げかけられた問いを思い返して、俺は薄く笑った。
何者だって構やしない。
名前が変わろうが、『冥府の門』を叩こうが、俺の誇りだった造形魔法を捨ようが、なんだっていい。
もうどうだっていいんだ。

だって『俺の世界』にはもうアイツは居ないんだから。



冥府の門―タルタロス―との闘いで、俺はジュビアを守れなかった。
俺を庇ってアイツは死んだ。
腕の中で徐々に冷たくなっていくジュビアを抱きながら、俺は気が狂いそうな剥きだしの悪を感じた。

今思えばそれが始まりだったかもしれない。

ジュビアだけじゃない。
師も、姉も、俺に関わった女は皆死んでいった。
自分を責め続け、これまでの自分を全否定し、過去を恨みながら、それでものうのうと生き延びて歳を重ねてきたけれど、やがて滅魔の力を手にし、大魔闘演武最終日に破壊された筈のエクリプスの扉が再び目の前に現れた時、俺は闇に堕ちてしまった。

仲間達が止めるのを振り払って時空の扉を開き、辿りついた過去の世界。
そこは何の因果か、『俺』がジュビアを失う前の世界だった。


この頃の俺が、どんなに愚かだったかは、自分が一番良く知っている。
だから壊すんだよ。何もかも。

俺の存在すら、消えてなくなる様に。






********************



訳分からないと思うので、補足を;;;(恥)

本誌で登場したシルバーさんを巡って、「グレイの父親説」・「ウルの旦那(ウルティア父)説」・「ウルの旦那とグレイの父は同一人物で、ウルティアとグレイは実は異母兄弟だった説」などなど様々な憶測が飛び交ってますが、その中であんきちは、容姿もグレイに似ているし、ナツの事を始めから良く知っている風だったし、初登場時の墓はグレイが建てたウルの墓なんじゃないかな〜と思い、
結果シルバーは、『未来ローグの様に闇に堕ちて、過去へやってきた未来グレイ」という推測をしたんですね。

だとしたら、グレイが闇堕ちする理由は、ジュビアの事に他ならない。
366話「1000の魂」で、ジュビアがグレイに「悪い予感がします」と、不安を訴えていましたが、ここからグレイに死亡フラグが立ったと見せかけて、実はそれを庇ってジュビアが死ぬ…という、とんでも展開もありえるんじゃないかなと。

ジュビアが居ない世界を壊すために、エクリプスを通って過去へやって来たという、お話になりましたが、矛盾は沢山あるんですね(笑)
まあ、その辺は、所詮二次だもの。
されど二次だもの。

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