◆頂いた作品◆

□はじまりの空
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その日は、朝から雨が降っていた。
激しい雨ではないにしても、しとしとと降る霧雨のような雨は、ギルドを、マグノリアの街を静かに包んでいった。
もともと雨を見るのも嫌いなジュビアだったが、その日は珍しくずっとギルドの窓から外を眺めている。

「何見てるの、ジュビア。そんなに真剣な顔して。」
「ルーシィ。別に・・・ただ待ってるだけです。」
「??誰を??グレイ?」

ジュビアが答えようとした時、奥からマスターと話をしていたグレイが戻ってきた。

「?グレイ、いるじゃない?」
「ジュビアはまだ何も言ってませんよ。」

ほっぺを少し膨らませて、ジュビアはルーシィに答える。
すると、グレイがルーシィに気付き、こちらにやって来た。
ジュビアは近づいてくるグレイを見て顔を真っ赤にしている。

「よぉ、ルーシィ。今頃来たのか。」
「だって、雨だったから支度に手間取っちゃって・・・」
「まぁったく、雨ってだけで何でこう憂鬱になるんだろうな。かったりぃ。」

ジュビアはうつむいた。

「なによ、機嫌悪そうじゃない。何かあったの?」
「あぁ?ちょっとじいさんに、な・・・ったく、暴れてぇのにこんな日に限って雨なんてよ。仕事もねぇし,やってらんねぇ。」

ジュビアは、かたんと椅子から立ち上がると、そのまま2階へ上がっていった。

「ちょっと、グレイ。今のはまずいよ。」
「なんでだよ。」
「ジュビア、まだここに入ったばっかで、気後れしてるのかもしれないじゃない。
なのに、追い討ちかけるように雨は嫌いだ、みたいな。」
「雨が嫌いだなんて言ってねぇ。それに雨とあいつとどんな関係があるんだよ。」
「ジュビアは、自分が雨女だったから雨が嫌いなんだって。
話聞いたら、今までも皆からいろいろ言われてきたみたいだったよ。うっとうしいって。」
「あー。」

グレイは、頭をガシガシかきながら、面倒くせえなぁとぼやいている。

「兎に角、ジュビアを見てきてよ。まだ話せるのってあたし達くらいだろうし。」
「ルーシィが行けよ。女同士なんだし。」
「あたしは、ミラさんのお手伝い!じゃ、頼んだわよ、グレイ。」

そう言い残し、ルーシィは足早にカウンターにいるミラの所に走っていった。
“なんで俺が・・・”
グレイは、一つ深いため息をつくと、ジュビアのいる2階へと歩いていった。


ギルドの2階のバルコニーからは、海が広がっているのが見える。
空は少し明るくなり、もうすぐ雨が止みそうな気配だった。

「よぉ、こんなとこで何してんだ?」

バルコニーに佇むジュビアを見つけ、グレイは努めて明るく声をかける。

「グレイ様。ジュビアは、雨が止むのを見ていました。
グレイ様こそ、どうしてこちらに?」
「あー。ルーシィがさ。さっきの俺らの会話で、ジュビアが傷つけたんじゃないかって心配しててさ。泣いてるかもしれないから、見て来いってさ。」

ジュビアは、謝るでもない、グレイの遠まわしな言い方に思わず、くすりと笑った。

「ジュビアは平気ですよ。あれくらい、慣れてますから・・・」
「慣れてんのかよ?!」

それよりも・・・と続けるジュビア。

「ジュビアは、今まで雨が止んでいるところを見たことがなかったですし、空が青いなんて想像したこともなかったんです。だから、今日はもう一度それが見たいなって。」

ジュビアが視線を海の方に向けると、雨はもうほとんど止んでいて、その先の空からは雲の切れ間からいくつもの光の筋が海に降り注いでいる。
海はその柔らかな光を受け、キラキラと輝きだした。

「綺麗・・・本当に。」

その光景を見て、うっとりしているジュビアの横顔に、グレイは一瞬ドキッとした。

「雨は止むんですね。そしてその後には、ジュビアの大好きな空が・・・
だから、昔ほど雨は嫌いじゃなくなりました。」
「んなこと、当たり前だけどなぁ。」
「ジュビアには、当たり前じゃないんです!」

今度は、ほっぺをぷっくり膨らませて、力説するジュビアにグレイは苦笑しながら続ける。

「ここには、お前を傷つける奴はいないから。もっと皆に頼っていいぞ。」

えっ、と驚いてるジュビアにグレイはニッと笑いかける。

「あ、ありがとうございます。えっと、えっと、それじゃぁ、グ、グレイ様もジュビアを頼ってくれますか?」
「そうだな、まぁ,そん時は宜しくな。」
「はい!ジュビア、頑張ります!」
頬を少し赤く染めて,ジュビアはとても嬉しそうに答えた。

「あぁ、腹減ったな。下で何か食おうぜ。」
「はい、お勧めは何かありますか?」
「うーん、ミラちゃんの作るもんは何でもうまいからなぁ・・・強いて言うなら・・・」

いつの間にか、雲は切れ切れになり、青空が広がり始めていた。
陽の光の中、雨上がりの清々しい空気が二人を包む。
これから起こるであろう、様々な出来事に胸を膨らませつつ、ジュビアは軽やかにグレイと共に下の階に降りていった。

彼女の恋は、まだ始まったばかり・・・

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