□桜の下
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薄紅の花弁が春の風に舞い、彼女の水色の髪に降る。

「グレイ様、きれいですね」
「ああ・・・」

柔らかに揺れる髪に積もった花弁を手でよけてやれば、
その頬を染めて、微笑みを返してくれる

もう何度、この景色を見てきただろう。

花吹雪の中に佇む、俺の幸せの象徴。

もし、幸せという物が目に見える物だとしたら
今、この瞬間がそうなんだろうと思う。

その姿を見ると、何故か泣きたくなる程愛しい存在。


ここまで来るのに、随分時間がかかってしまったから、
いつ、この気持ちを自覚したとか、
いつ、自分に向けられている好意に気が付いたとか、
そんな事は、今ではすっかり忘れてしまったけれど

長い間、俺の気持ちが固まるのを根気良く待っていてくれた。

ずっと、ハッキリとしない曖昧な関係だったのに
それでも俺を一途に想い続けてくれた。

きっと、また今年も、答えをはぐらかせば
今までと同じように彼女は、ふざけ合いながら許してくれるだろう。

そして同じように、約束など交わさなくても来年もこの桜を見に来るだろう。
始まりも終わりも無い関係の、変わらない日常の1ページとして。


逃げ腰で、いつまでも煮え切らない態度の俺に
費やしてくれた何年もの長い時間と、深い愛情。




それに応えるには、今更、恋人になるとか、そんなんじゃ足りない。



もう何もかも飛び越えて、俺の今の気持ちを伝えたい。


湧きあがる衝動のまま、今、伝えたい。







「ジュビア・・・」

「はい?」




「・・・・・」






「グレイ様?―」












「・・・・結婚しよう・・・」






「・・・・え・・・?・・・」






お互いの視線が絡んだ瞬間、
うるさい位に聞こえていた自分の心臓の音も消え
世界が無音に包まれた。




彼女の唇が、柔らかな弧を描いてくれたなら


きっと、次に動き出す時間は、
重なった2人の未来へ続いて行くだろう。

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