□ジュビアのバレンタイン
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今日のギルドは、いつもと違う雰囲気をかもしだしている。
漂う甘い匂い。
集まっては、盛り上がる女子達。
そわそわと、どこか落ち着かない様子の男達。
そのまわりで冷やかす、オヤジ達・・・は、いつもと変わらないが、
その視線には、やや羨望も含まれているように見える。
そう、今日はバレンタイン。

普段ならまだギルド内の人気もまばらな、朝も早い時間帯だったが、
老若男女関係なく、色んな思惑が交差するこの日に限っては、
そんなことは関係なく、賑わっていた。

その中には、もちろんジュビアの姿もあった。

「ルーシィ、これどうぞ。中身はトリュフです」
「ありがとジュビア。じゃああたしからもハイ!一口サイズのアップルパイよ」

友チョコの文化は、アースランドにも健在の様で、
2人は、可愛らしいラッピングの巻かれた包みを、お互いに交換し合う。

「ところで、ルーシィはもうナツさんにあげたんですか?」
「ちょっ、何言い出すのよジュビア!・・・っても、バレバレよね。まだこれからなんだけど、ジュビアこそもうグレイにあげたの?」
「ジュビア、グレイ様にはあげませんよ?」
「えっ?!!!どうしちゃったの、ジュビア!本命のグレイに渡さないなんて、ホントにジュビア?!」

ジュビアの口から、信じられない言葉が飛び出したため、ルーシィは心底驚いた。

「失礼ですよ、ルーシィ。本物のジュビアですけど、いけませんか?」
「いや、でも、グレイにあげるためのお菓子は作ったみたいだし、渡さないなんて勿体ないな〜って思って・・・」

ルーシィがジュビアの手に目をやると、そこにはいくつもの赤く腫れたやけどの跡。
先ほどのトリュフを作っただけでは、こうはならない。
きっと、何か他に焼き菓子を作ったのだとルーシィは気付いたのだ。

「いいんです。これは単なるジュビアの自己満足ですから。ジュビア、考えたんです。グレイ様は元々甘い物はあまり召し上がらないみたいですし、それをあげたら、逆に迷惑なんじゃないかと。
  ジュビアは最近グレイ様を困らせてばかりですから、これ以上嫌われない様にしたいんです。だからプレゼントも、部屋に置いたまま持ってきませんでした。」

そう言うとジュビアは、一人仕事へ向かった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「ジュビア」

仕事を終え、ジュビアがギルドに戻ると早々に、入り口付近のテーブル席に居たグレイから声をかけられた。

「グレイ様!ただいま戻りました。ジュビアに何か御用ですか?」

「いや、ほら、仕事終わったんなら、たまには飯でも一緒に食いに行かねえかと思ってよ」

「グレイ様から誘って下さるなんて、ジュビア嬉しいです!仕事の報告してくるので、もう少しだけ待ってて下さい!」

そう言うとジュビアは、嬉しそうにカウンターまで走って行った。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

数時間後、すっかり辺りも暗くなったマグノリアの街の中に、2人の姿はあった。

食事を済ませ、寂しいながらも、
好きな人と過ごした幸せな時間の余韻が残っているうちに、一人帰ろうとしたジュビアを、
わざわざ寮まで送ると、グレイが言ってくれたのだ。

『どうしたんでしょう?今日のグレイ様は、特別優しい気がします…』

いつもと少し違うグレイの態度に、ジュビアは少し戸惑ったが、
好きな人に優しくされて、嫌なことなどありはせず、その好意に素直に甘える事にした。



夕食と一緒にお酒も少し飲んだせいか、帰り道では、2人の会話も弾み
普段よりグレイとの心の距離を近く感じた。


そこでジュビアは、今日一番気になっていた事を聞いてみる事にした。


「グレイ様、今日はバレンタインでしたけど、チョコは何個貰ったんですか?」
「あ?一個も貰ってねえけど?」

意外な答えに、ジュビアは驚く。

「え?!でもグレイ様は毎年たくさんの女性からプレゼントを貰うって・・・」

「確かにそうだけど、別に好きで貰ってたわけじゃないからな。今年は全部断った」

「そうだったんですか・・・」

ジュビアは、もし自分があげていたら、同じように断られていたのだろうと思うと、
ショックを受けた。

けれど同時に、やはりあげなくて正解だったと、どこか少しほっとした。


部屋のテーブルに置きっぱなしのグレイへのプレゼントは、帰ったらそのまま捨ててしまおう。
そんな事を考えているうちに、いつの間にか寮の前に着いてしまった。


沈んだ気持ちのまま、グレイに送ってくれたことへのお礼を言って、
中に入ろうとした時だった。


まだ何か話し足り無げな様子のグレイが口を開いた。


「そういや、ルーシィからお前が作ったトリュフ貰って食った。うまかったよ」
「え?ルーシィから?グレイ様、甘い物お嫌いじゃなかったでしたっけ?」

「ああ。別に好きでも嫌いでもねえけど。でもお前が作ったヤツは上手かったぜ」


他の女の子達からのプレゼントは断ったのに、
自分が作ったお菓子を、今日という特別な日に食べてくれた。

グレイのその一言で、沈んでいたジュビアの心は温かくなる。


「では、来年のバレンタイン、グレイ様の為にお菓子を作ってもいいですか?」

「ああ、頼むよ。・・・・・・って、来年????!!!今年はねえのか!!」


グレイから発せられた、間の抜けた声は、


来年の約束まで取り付けられた事で、舞い上がったジュビアの耳には聞こえなかった。


そして、今日一日彼女からのチョコレートを待ち、
渡されやすい状況を懸命に作ったグレイを、一人入り口に残したまま、
ジュビアはフラフラと寮の中へと消えてしまった。


「おいおい・・・まじかよジュビア・・・・・・。鈍感って、人の事言えねえだろ!!!!!」




〜一方、フェアリーヒルズの一室〜

「来年は何を作ろうかしら・・・いえ、何を差し上げようかしら。それならいっそジュビア自身を?!きゃー!ジュビア恥ずかしい!!」

いつもの妄想モードへシフトチェンジしたジュビアが、テーブルの上に置かれたお菓子の包みを見て、
゛今年の…゛を、あげ忘れたと気が付くのは、
彼女の熱が覚める、数日後だったという・・・。

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