□ディナーの後はスウィート?
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一緒に行った仕事の帰りに立ち寄った街で、
ここのバーはご飯も美味しいらしいですよ。食べて帰りませんか?なんていうから
入った店なのに、この状況はどうだろう…。


俺の横には、まだメインの料理にも手を付けてないというのに
両手を膝に置いたまま、こくりこくりと頭を揺らしながら、カウンターの椅子に座り、
そのまま夢の中に旅立っていったジュビアがいた。

「おい、ジュビア!起きろ。飯食わねえのか!?」
さっきから隣で何度も名前を呼んでみるが、返事どころか身じろぎもしない。
すでに深い眠りに入ってしまったらしい。

しかしこんなバランスの悪い所で眠れるなんて、ある意味すごい。

連日の仕事でそれだけ疲れてたってのもあるかもしれないが、
店に入って席に着いた途端、この温かな店の室温にやられたのか、
うつろうつろし始め、とうとう話している最中、眠ってしまった。

さて…どうすっかな。

頼んだ料理は来たものの、目を離すと椅子から落ちてしまうのではないかと
おちおち夕飯も食べられず、おあずけ状態。

とりあえず可哀想だが起こそうと、ジュビアの方に身体を向きなおすと
子供みたいに頬を赤くして、幸せそうな顔で眠る寝顔。

ファントム時代、大海なんて二つ名で呼ばれ、
最初フェアリーテイルに来た時も、ギルドの連中から密かに怖がられてたのに
やっぱり寝顔はあどけない。

いざ戦闘になれば気後れもせずに、
屈強なギルドの男達と肩を並べる奴なのに
肩幅なんて、俺の腕の中に収まる位しかないし
首筋も腰も、というより全体的に細い。
スリットから見え隠れする足の白さも、
無骨な男のそれとは、やはり違う。

こうしてるとホント…

ちゃんと女なんだな…


俺は頬杖を付くと、ジュビアの唇にかかる水色の髪を手でよけてやろうと手を伸ばした。

「ん…」
「!!!!」

っぶねえ!

ジュビアが身じろぎをしたため、俺は慌てて手をひっこめた。

仮にこの、唇に触れようとしたタイミングで起きたら、
まるで俺が寝込みになんかしようとしてたように勘違いされるじゃねえか!!
って、何かってなんだよ!
やましい事は何もしてねえっつうの!
あー!もう!

俺は自分に突っ込みつつ、顔でも洗って落ち着きを取り戻そうと席を立った。

思考が挙動不審なのは、普段見る事のないジュビアの無防備な姿に、
近距離で晒されているせいだ。

ジュビアから離れた間、俺はひたすら

『アイツはただのギルドの仲間。アイツはただのギルドの仲間。』
と言い聞かせた。

こんな風に改めて意識するのも変な話だが、
今日の自分はどこかおかしいのだからしょうがない。

店の奥の洗面所で、顔を洗い頭を一旦カラにすると、
フロアに戻るため、続くドアに手をかけた。

(って、なんだアイツ等!)
俺の目に飛び込んだのは、ちょっと席を離れた隙に
2人組の男がジュビアに絡んでいる光景。

とはいっても、当のジュビアは眠っているので、相手にはしていないが、
それをいいことに男の一人は、ジュビアの腰に手までかけている。

(そういやここがバーだって事忘れてた。)

意識があればまだしも、薄暗い店内のカウンターに、女が一人無防備に寝ていれば、
良からぬ男が寄ってきて当然だ。

俺は、賑わう人をかき分けそばへ行くと男達に声をかけた。

「ソイツ俺の連れなんだけど?」

所詮ナンパはナンパ。
急に背後から俺(邪魔者)が現れたことで
男達は、何も言わずその場を離れフロアに戻って行った。

ったく、世話の焼けるやつだな・・・

俺は再びジュビアを起こしにかかる。

「おら、ジュビア起きろ!起きないとこのまま置いてくぞ!」

そんなことはするつもりは毛頭なかったが、
頬を優しくはたきながら起こすと、ジュビアの瞼が重く開いた。

「あれ…?グレイ様。もうご飯来たんですか…?」
「何寝ぼけてんだ。飯ならとっくに来たけど、食べないで寝ちまったんだろ?」
「え?え?!ジュビア寝てました?!!そんな、せっかくのグレイ様とのディナーだったのに、居眠りしてしまうなんて!!」

ショックを受けるジュビアの横で、俺はそそくさと帰り支度をする。

「疲れてたんだから気にすんな。また来りゃいいだろ。今日はもう帰ろうぜ」

俺の中でごく自然に出た、「また」の言葉に、ジュビアはきょとんと目を丸くした。

「グレイ様、もう一度一緒に来て下さるんですか?」
「ん?ああ…まあ、アレだ、機会があればな」

ジュビアに反復され、
『また』に込められた無意識の感情を、意識してしまった俺は
言葉に詰まり、答えをごまかした。



そして気付く。

どうやら俺はジュビアの事を・・・


いや、
今日はこれ以上深く考えるのはやめとこう。

店を出れば、幸い、先ほどの店の中とうって変わって寒空。

頭を冷やすのにはちょうど良い空気に当たりながら、
俺は、自分の気持ちを突き詰める事を放棄した。

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