◆頂いた作品◆

□恋は盲目
1ページ/2ページ

このお話は、あんきちが夏様に差し上げたロキルー絵に、夏様がコラボして下さったものです。

***************


――遠く、遠く、銀河で渦を巻く星雲のように

これからは君を遠くから見つめていよう。

大丈夫。例え何光年離れていようと、君のピンチにはいつでも駆けつけるから。


君の忠実な星霊として――



「はぁ〜」
「なんだ?ルーシィのやつ、さっきから景気悪い声出しやがって」
ギルドのカウンターで何度目かの深いため息を吐いたルーシィに、少し離れたテーブル席にいたグレイが顔を上げる。

「ありゃあ、また家賃が足りないか、ロキと痴話喧嘩したかどっちかだな」
グレイは頭の後ろで高く両手を組み、隣に座ったハッピーにニヤリとしてみせた。
ルーシィは浮かない顔で頬を両手で支えるように肘をつき、窓から見える高く青い秋空をぼんやりと見上げている。だが幸福絶頂の今のルーシィにはどうせ大した悩みなどあるはずがないのだ。

ハッピーがグレイにの腕を肘でつついた。
「グレイ、それがさ、ルーシィったらロキにふられちゃったんだって」
「ふられた?ロキが、じゃなくてルーシィがか!?」
グレイはズルリと木椅子から落っこちそうになって慌てて頑丈な無垢の木のテーブルを掴んだ。

「そりゃあないだろう!?」
「それが本当らしいんだ。夕べ突然ロキから別れようって言われたんだって」
「ちょっと、ハッピー!?」
ルーシィに睨まれ、ハッピーは小さな肩を竦めた。だがすぐに小声でグレイに耳打ちする。
「オイラはロキがルーシィのがめつさに愛想を尽かしたんだと思うんだ」
「ルーシィのやつ、ロキを顎でこき使ってたしな」
したり顔のハッピーに一緒にいたナツも真顔で頷く。
「それもそうだね。ロキまるで犬みたいだったもんね」
「獅子なのに犬扱いなんて惨めだよあぁ」
「聞こえてるわよ!勝手に人の不幸を話の肴にしないで。顎でなんて使ってません!」
ルーシィはぶっきら棒にそう言うと、まったくもう、どいつもこいつも、と呟き脱力したようにバタリとカウンターに突っ伏した。そのまま張り付いてしまったかのようにピクリとも動かない。

大分堪えてるようだな、そう感じつつもグレイはまだ半信半疑だった。
「ロキが自分から別れを切り出すなんてあり得ねぇ…」
2人のことはよく知ってる。ロキがルーシィにベタ惚れなのは疑いようがない。自ら離れていくなんて天地がひっくり返ったってあるはずがないのだ。
「まさか、ロキの野郎、また消えちまうつもりじゃねーだろうな」

犬と女王様のモノマネをしていたナツとハッピーがぎょっとした顔をして動きを止める。ルーシィの背中もピクリと固まった。

「まさか」
「まさかな」
「まさかとは思うが、他に考えられるか?」

数秒の静寂の後、突然ルーシィがガタリ、と椅子を鳴らして立ち上がった。
「ああああたし、探してくる!」
そう言うや否や、金髪を翻してギルドを飛び出して行った。



☆〜・〜☆〜・〜☆

「ロキが突然、あんなこと言うなんて絶対おかしいわ」
逸る気持ちを抑えて心当たりの場所を早足で巡りながら、ルーシィは夕べから何度も繰り返した疑問をまた繰り返していた。
「大体いきなり僕たちもう終わりにしよう、とか、もう会わない、とか、なかったことにしよう、とかそんなこと、突然言われたって、ああそうですかなんて言えるワケないじゃない」

いきなり?
ルーシィの歩みが遅くなった。
違う。この間戦闘で彼を呼び出した。その時には既に少し様子がおかしかったのだ。
ルーシィはその時に痛めた右腕に巻かれた包帯を無意識に摩った。

気づけば2人でよく歩いた河川敷に来ていた。
傾いた夕陽のせいでロキの髪のように一面のススキがオレンジ色に燃えている。
立ち止まってオレンジ色に波打つススキの海を眺めながらルーシィはポツリと呟いた。
「まったくもう、理由くらい言いなさいよ。あんた、あたしから離れて生きていけるの?」

『ルーシィ〜♪ 愛してるよ〜』
『ああ、はいはい。わかったから離れなさい』
『ダメ、もうくっついちゃったから離れない。離れたら死んじゃうよ』
『バカ言ってないで離れなさい、暑いのよ』
『つれないなあ、ルーシィは』
苦笑いを浮かべたロキの顔が目に浮かぶ。

「バカロキ……何よ、他にもっと好きな人ができたっていうなら……いうなら……」
だが自分で言うのもなんだが、ロキに自分以上に好きな相手ができたなどどうしても思えない。
「ならやっぱり、……消滅?」
信じたくはないがそれが一番納得のいく理由のように思われた。
急に猛烈に不安になってこみ上げて来た胃液をごくりと飲み込む。

ロキが消えてしまう?
夕べロキに別れを告げられてからずっと自分の半身をもぎ取られたようにすっこりと空いた空洞、迫り来る万感の想い。
いつの間にか、側にいて当たり前になってた。いなくなることなどあり得ないと。

――あたし、こんなにもロキが好きになってたんだ――

先程とは別の塊に胸が押し潰されどうしようもなく泣きたくなる。

ルーシィはキッと顔を上げた。
「消滅なんて!そんなこと、絶対させない!」

突き動かされるように再び走り出したルーシィが海辺でロキを見つけたのは空がロキの髪の色からすっかり藍色に変わった時刻だった。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ