◆頂いた作品◆

□40000hit御礼に寄せて〜ユニゾンレイドをしよう!〜
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暖かな陽気に誘われるように、花達は眠りから目覚め、
その花達と戯れる小さな昆虫が生命を謳歌している。
外に出てみれば、風も穏やかで、
行き交う人々も心なしか浮かれているように感じる。

“今日も、きっと変わり映えの無い、普段通りの日なんだろうな。”
家のドアを開け、伸びをするように両腕を上にあげると、
なんの根拠もなく、グレイはそう思う。

そう、フェアリーテイルのギルドに着くまでは。

グレイがギルドに着いたのは、昼の少し前。
今日は何を食べようか、悩みながらギルドに入る。
“ミラちゃんの作ったランチプレートか、もしくは外に食いに行くかだな。
・・・ジュビアが居たら、誘ってみるか。”
そんな事を考えていると、ふと、あるテーブルに視線が向いた。

そこに居たのは、得意げに自分の魔法について語るリオンと
それを真剣に聞きながらメモを取るジュビア。
“・・・見間違いか?こんなとこにリオンが居るはずが・・・”
グレイはそう思いながら、辺りを見回す。
カウンターでは、マスターとジュラが何やら真面目な話をし、
トビーとユウカはエルザに絡まれていた。
リオンのすぐ隣の席では、
シェリアとウェンディが仲良さげに笑いながらしゃべっている。
“どうやら、夢じゃねぇみてぇだな。”
グレイは、一度大きくため息を吐くと、リオンとジュビアの元へと歩み寄る。

「リオン、なんでお前が此処に居る?」
朝の挨拶そっちのけで、グレイはあからさまに不機嫌そうにそう尋ねた。
「あっ、グレイ様、おはようございます♪って言っても、もうお昼前ですね。」
ジュビアはにっこり笑ってそう言うと、
グレイがいつも口にする飲み物を取りにカウンターへと席を立つ。
「グレイ、貴様は挨拶も出来んのか!情けない、そんな事ではウルの弟子と・・・」
「んなこた、聞いてねぇよ!なんで、お前が此処に居るんだ?!」
グレイは語尾を強めて、同じ質問をリオンにぶつける。

「ラミアスケイルのお使いだそうですよ、グレイ様♪」
カウンターから戻ってきたジュビアが、グレイの前のテーブルに飲み物を置くと
にっこり笑ってそう答える。
「あぁ?使い?」
何の・・・と言おうとして、リオンのうっとりとジュビアを見つめる顔を見た途端、
グレイの頭の中で、何かがはじける。
「・・・どうせ、てめぇの事だ。
なんだかんだ理由つけてジュビアに会いに来ただけだろう!」
あからさまなんだよっ!と、リオンを睨みつける。

「まぁ、そう言うな、グレイ。
愛する人と一緒に居たいと思うのは、人間の性だ。」
リオンは上機嫌でグレイの言葉をかわすと、ジュビアさっきの続きだが・・・と
席に戻ったジュビアの方へ向き直り、また得意げに氷魔法の特性についてしゃべり出す。
「そもそも、氷魔法とは自分が氷であるかのように感じる事から始まるんだ。
ウルとの修行では、雪景色の中をパンツ一枚で毎日修行したし、
氷風呂にも毎日入っていた。その中で、身体がその寒さや冷たさを自然と覚え、
やがて“氷”という物体を造り出す事が出来るようになる。」
リオンの話を聞きながら、ジュビアは真剣にまたメモを走らせる。
「そこまでは、ジュビアの水魔法と感覚は似ているかも知れません。」
ジュビアは、小声でそう言うと、ほぅと軽くため息を漏らした。

グレイは、そんな二人の様子を見て、不機嫌極まりないという顔をしながらも、
この先、話が暴走したらそれを食い止めようと、空いていたジュビアの隣の席に座り、
持ってきて貰った飲み物を、苦々しい顔で口に運ぶ。

「オレの魔法は氷の造形だ。
だから、その感覚とはまたちょっと違ったものになるかも知れないが、
自分の魔力で“氷”を物質化しつつ、造形も行う。言わば、上級魔法と言う事だ。」
リオンは、そこまで話すとジュビアの肩の手を掛け、耳元で囁くように
「しかもオレは“動”の造形魔導士。造形の上に動きも与えるのだから、
並大抵の魔導士には真似出来ん。」
そう言って、ニヤリと笑う。

「・・・全部、聞こえてんぞ。この自意識過剰野郎!!」
それを聞いていたグレイが頬杖を付きながら、リオンを睨む。
「聞いていたのか、グレイ。お前には真似出来んから可哀想だと思って
小声で話してやったのに。」
リオンは、まるでグレイを見下すように、でもとても楽しそうに笑ってそう答える。

「・・・ただ、ジュビアに触りたかっただけだろうが!
いいから、その手をどけろ!」
ジュビアの頭の上で、グレイとリオンは額をぶつけながら睨み合っている。
今回ジュビアは、そんな事はまったく気にしていないのか、
自分で書いたメモを何度も読み直し、
眉間に皺を寄せながら、真剣に真剣に“何か”を考えている。

グレイとリオンの睨み合いから、パラパラとジュビアの帽子の上に氷が降り始めた頃、
そんな二人の関係にサァァと水を差すように
「! 解りました!!♪」
と、まるで謎解きの問題が解けた子供のようにして、ジュビアが両手をポンッと合わせ、
蒼空色の瞳をキラキラさせる。
「もし、同じ属性・同じ系列の方が良いのなら、
“水に近い氷”と“氷に近い水”だったら、上手くいくのかも知れません♪」
ジュビアのその言葉に、頭にいくつかクエスチョンマークを浮かべるグレイと、
なるほど・・・。と、一人納得するリオンが居る。
「その発想は、間違っていないかもしれん。さすがは、ジュビア♪
頭脳明晰なオレが愛するだけの事はある♪」
そう言ってリオンは、まだ二人のやり取りに理解が出来ないグレイを嘲笑う。

「グレイ、貴様はいつも頭で考えるよりも先に体が動くタイプだからな。
オレとジュビアの話の内容についていけなくても無理はない。」
「オレだって、最初から話を聞いてりゃそれくらい解るぜ!」
このナルシスト変態野郎!と、グレイが言うと
「・・・で、何の話をしてんだ?」
ジュビアに向き直り、小声で話しかける。
「・・・グレイ様♪頭で考えるより、修行しましょう♪」
ジュビアはカタンッと席を立つと、にこやかに微笑む態度とは裏腹に、
背後には、並々ならぬ闘志が漲っている。
「そうだな、ジュビア♪修行に行こう♪」
リオンも嬉々として席を立つ。

「・・・だから、何の話だ!!」
ますます訳の解らないグレイが、業を煮やしてそう叫ぶと、
ジュビアとリオンはにっこり笑って
「魔力融合(ユニゾンレイド)です。グレイ様♪」
「魔力融合(ユニゾンレイド)だ。グレイ!」
二人は、息もピッタリ同時に声を上げる。

「・・・・・・は?」
ジュビアとリオンのあまりの迫力に、グレイは若干引きつつも
今回は負けじとそんな二人に応戦する。
「魔力融合がそんなに簡単に出来てたまるか!」
「そうなんです、グレイ様♪だから、お互いの魔力をなるべく“近い状態”にすれば
上手くいくんじゃないかと・・・♪」
自分の思い付いた発想にウキウキして答えるジュビアに、
「ジュビアは、頭もよく筋も良い。ジュビアが望むなら、
オレはこの命、魔力融合の為に捧げても構わない!」
すでに自意識過剰を通り越し、自己陶酔の域に達しているリオンが答える。

そんなリオンに、えっ?ジュビアはグレイ様と・・・と、しどろもどろに答えるジュビアに
さぁ、行こう!ジュビア♪オレ達の世界へ・・・♪と、リオンはジュビアの腰に手をあて、
エスコートしながらギルドの外へ連れて行く。

「・・・・・・っ、おまえらっ!・・・いい加減にしろ!!」
今まで、そんな二人のやり取りを黙って聞いていたグレイの拳がワナワナと震える。
その声で、歩みを止めたリオンをキッと睨みつけると
「まず、リオン。さっさとジュビアから手を離せ。目障りだ。」
静かな、低い声がグレイの怒りの度合いを物語っていた。
グレイの恐ろしいほど鋭い眼差しに、リオンはため息をつきながら
ジュビアの腰に廻していた手をどける。
「・・・それから、ジュビア。魔力融合ってのはなんだ?」
ジュビアにもグレイが本気で怒っている事が伝わり、少し青ざめながら
「あっ、はい、お互いの魔力を一つに融合させる魔法で・・・」
震えながら、涙目で段々声が小さくなっていくジュビアに、
グレイは、一度大きく深呼吸すると
「・・・それだけじゃぁねぇだろ?!」
と、若干声色を緩めてジュビアに諭す。
「魔力融合ってのは、最も理解し合って、最も信頼し合っている者同士が
初めて出来る魔法なんだろ?!
魔力の属性・系統なんかじゃ、計り知れない魔法だと、オレは思うぜ。」

グレイの言葉に、ジュビアは目線を伏せながらもこくんと頷く。
その瞳には、今にも溢れそうに蒼い海が湛えられている。

「・・・いいか、オレは怒ってるわけじゃねぇ。
修行云々の前にする事があるだろって言ってんだ。」
グレイはそこまで話すと、ふぅっとため息を漏らした。

「グレイ!貴様、ジュビアを泣かせるとは!!許さんぞ!」
側で怒りに燃えるリオンに対しては、
「さっきから聞いてりゃ、自分の方が魔導士として優れてるだの何だの言いやがって!
相手になってやるから、とっとと表に出ろ!!」
と、グレイもまた、怒りを露にする。

グレイがそのままギルドを出ようとした時、ジュビアがグレイの服の袖をそっと掴んだ。
「?」
クンッと引っ張られて、グレイがジュビアの方へ視線を落とすと、
「・・・で、ではグレイ様。修行云々ではなく、お互いをもっとよく理解するために、
そ、その、ジュビアと、こ、これから出掛けませんか?」
さっきまで泣いていた筈なのに、ジュビアはプシューッと頭から湯気を出し
顔を真っ赤に紅潮させて、どもりながらそう話す。

「・・・へ?」
どう解釈したらそういう発想になるのか、呆れて言葉を失っているグレイに
「そういう事なら、オレと行こう!ジュビア♪
君には、オレをもっとよく知ってもらわねばな♪」
・・・そうすれば、きっとグレイなんかよりオレの方が優れていると解るはずだ♪
リオンは嬉々として、ジュビアの腕を強引に引っ張り、ギルドの外へと歩き出す。

“・・・なんで、毎回毎回こうなるんだ!”
グレイは、こめかみ辺りがズキズキと痛み出すのを感じていた。

「グ、グレイ様ぁ〜!!」
ギルドの外からグレイを呼ぶ声にハッとし、
“今日は変わり映えの無い、普段通りの一日だと思ったのに。”
心の中でそんな事をぼやきながら、
「待ちやがれ!リオン!!」
と、慌ててリオンとジュビアを追いかけていくグレイ・フルバスター。

18歳、思春期真っ只中の苦悩する青少年、
麗かな春の、普段通りの一日。

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