◆頂いた作品◆

□30000hitに寄せて〜好きな人は誰ですか?〜
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冬の暖かな陽差しが心地良く感じられる。
目線を上げれば、蒼くどこまでも澄み渡った、雲一つ無い空が広がる。
滑らないようにだろうか、少しざらついた石の上を歩き、
古い石段を降りていくと、ここに来た目的の温泉が姿を現す。

琥珀色の湯から柔らかな湯気が立ち込め、薄いもやのようになって広がっている。
湯船の大きさは、15人入ると一杯になるであろう大きさだが、
今日はまだ誰も入っていないのか、水面が穏やかに風に揺れていた。
ジュビアは着ていた服と愛用のブーツを脱ぐと、
日に焼けていない雪のように真っ白な足をソロソロとゆっくり湯に浸けてみる。

湯の温度は思いのほか熱く、
ジュビアの白い肌はすぐに上気して、淡い桜色になっていた。
“うっ、・・・痛っ。”
ジュビアは左肩を湯に沈めながら少し顔に苦悶の表情を浮かべると、
でも次の瞬間、はぁぁっと力の抜けた深いため息をついて、ゆっくり瞳を閉じた。
“マスターの言う通り、凄く気持ちの良いお湯です。”
誰も入っていない開放感で、左肩を庇いながら、
うーん、と手足を思いっきり伸ばしてみる。
湯の表面は綺麗な透明の琥珀色なのに、底にいくにしたがってその色は濃くなり、
湯に浸かるジュビアの胸のあたりから下は、濃褐色のため良く見えない。
琥珀色の湯を手のひらですくい上げると、
少しねっとりとしていて、小さな気泡が上がっていた。
“これが傷に効くんでしょうか・・・”
そんな事を考えながら、朝のギルドの出来事を思い出す。

その日の朝、ジュビアがギルドにやってくると、
僅かの差でグレイ達はすでに仕事に出掛けてしまっていた。
ならば、ジュビアも仕事を・・・とリクエストボードを眺めていると、
天井のほうから、ミシミシと音が聞こえてきて、埃がパラパラと舞い落ちている。
そのすぐ下で、アスカが椅子の上に乗って人形と遊んでいた。
“?” 不思議に思って天井を見ていると、いきなり爆音と共に屋根が崩れてきた。
無意識に身体がアスカの方へと反応する。
ゴォォォン!!!と屋根の一部が床に落ちる音と、
ジュビアがアスカを庇ったのは同時だった。

「何事じゃぁ!!」
そう言って叫ぶマカロフに、屋根から落ちてきたガジルが
「・・・修行していて、落下点を見誤った。すまねぇ。」
と、罰の悪そうに答える。
「ジュビア!アスカ!大丈夫?」
カウンターからミラが声を上げる。その声に反応するように、
崩れた屋根の下からジュビアがアスカを抱いてゆっくりとした動作で起き上がった。
「大丈夫です、ミラさん。アスカちゃんは無事です。」
そう言いながら、あまりの出来事にビックリして泣けないでいるアスカをミラに預け、
そのままその場所にうずくまる。
ジュビアの左肩からは、服の上からうっすらと血が滲んでいた。

「咄嗟の事で、魔法を使うより身体が先に動いたか・・・」
マカロフがそう言って、ジュビアの傷を確かめる。
「これなら、ポーリュシカを呼ぶまでも無かろう。じゃが、打ち身がヒドイのぅ。」
うーん、と暫く考え込むと、
「そう言えば、この前マスター同士の会合で慰安を兼ねて、秘湯に行ったな。
そこは、打ち身や傷が早く良くなるらしい。」
そう言うと、心配して側にやってきたレビィが
「あ、あたし、その場所知ってるよ!
今日は、仕事入ってないから、ジュビアを連れてってあげる♪」
「それなら、ガジルも連れて行け。山深いから、護衛にな。」
マカロフはそう言うと、ガジルを軽く睨む。
「・・・あぁ、解ったよ。今回は、俺が悪ぃしな・・・」
ガジルも珍しく素直にそう答えると、すぐにミラの準備した荷物を持ち、
「ジュビア!チビ!行くぞ!!」
そう言って、先陣を切る。
「ちょっと〜待ってよ、ガジル!
そんなにスタスタ一人で歩いたら、護衛にならないじゃん!」
食ってかかるレビィに、ジュビアが
「ガジル君は、あぁ見えて凄く悪いと思ってるんです。それに・・・」
レビィの耳に聞こえるかどうかのヒソヒソ声で話す。
「レビィさんと一緒だから照れてるんですよ♪きっと・・・♪」
そう言って、ジュビアがにっこり笑った瞬間、
「全部聞こえてんぞ、雨女!!滅竜魔導士をなめんじゃねぇ!
チビ!てめぇもぐだぐだ言ってねぇで、さっさとついて来い!!」
ガジルがそう言って怒鳴る。
・・・場所、知らないくせに。そう言って、むくれるレビィをなだめ、
ジュビア達は、秘湯を目指してギルドを後にした。


「あっ!!」
「どうしたんですか?マスター?」
青い顔をして、何かを思い出したマカロフにミラが問いかける。
「いかん・・・あの秘湯、混浴だって言うの、忘れとった・・・」
まぁ、いっか♪あんな山奥の温泉、誰も入らんじゃろ♪
そう言って能天気に酒を飲むマカロフを、ミラがあらあらと呆れながら見ていた。
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