◆頂いた作品◆

□10000hit御礼に寄せて〜氷使いのとある一日〜
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今日はとても良く晴れている。
昨日から降っていた雨が止んだせいか、空気が澄み切っていて、
息を吸うと少し冷たい、清々しい空気が体を満たしていく。
空には雲ひとつなく、これから出掛けるグレイには、
何か良い事が起こりそうな、そんな予感さえしてくる。

待ち人が来るのを待つ時間も結構良いもんだな、と、
グレイは、まだ雨の雫が残る花を見ながら、ぼんやりそう思っていた。


「グレイ様〜!」
遠くからジュビアの声がする。心なしか、とても嬉しそうに。
フェアリーヒルズの寮からマグノリアの街に出る小道で、
グレイは今日、ジュビアと待ち合わせていた。

「すみません、お待たせしてしまったみたいで・・・
ジュビアも早く部屋を出たんですが・・・」
軽く息を弾ませ、ジュビアが申し訳なさそうに俯いた。

「いや、オレもする事無かったから、
早めに来ただけだ。気にすんな。」
グレイはそう言い、ゆっくりと歩き出す。
その速度が、息の切れたジュビアを気遣っての事だと解ったのか、
ジュビアは、ますます嬉しそうにはにかんでいる。

「で、お前は今日何買うんだ?」
「あっ、はい。ルーシィに編み物を教える事になったので、
手芸屋さんに・・・」
ジュビアは、にっこり笑って答えた。
きっと、真面目な彼女の事だ。
教える前に自分でおさらいでもするのだろう。

「編み物?ルーシィが?出来んのかよ?!」
「グレイ様、教える前からそんな事を・・・
ジュビアが一番心配なんですから。」
そう言って、ジュビアが本気で不安そうにしているので、
グレイは余計に可笑しくなる。

街の手芸屋に入ると、ジュビアは慣れた手つきで
毛糸やら、編み棒やらを楽しそうに吟味していく。
そんなジュビアを見て
“昔、誰か男に作ってやった事があるんだろうか。”
そんなザラリとした思いが、ふと浮かぶ。

グレイは、自分の頭を何度か振ると、一つため息をついた。

「グレイ様、グレイ様!」
ジュビアが面白いものを見つけたようにはしゃいで手招きをしている。
グレイが傍によると、ジュビアが持っている編み物の本、
“彼に着せたい素敵なセーター”にポーズを決めて写っているのは・・・
「ロキ??!」
セーターの各テーマごとに写っている、乗り乗りな彼が可笑しくて、
グレイとジュビアは二人して顔を見合わせ、笑った。

「ビックリしましたね♪今度会ったら、聞いてみなくちゃ♪
ルーシィはこの事、知ってるんでしょうか。」
まだクスクス笑いながら、楽しそうに話すジュビアを見て、
グレイも穏やかな気持ちになる。
が、ふと、ジュビアの買い込んだ毛糸の色を見て、
グレイは先程浮かんだ嫌な感情を思い出す。

「随分暗い色ばかり選んだんだな。
お前も誰かに編むのか?」
その色は、確かにロキが着ていたような、そんな色ばかりだった。
「? いいえ?
あっ、でもグレイ様が着られるなら・・・」
「オレは着ない。」
何故、即答したのか、自分でも解らない。
・・・ですよね。と小さな声で俯くジュビアに
グレイは少し申し訳なさを感じたが、
今はまだ、その思いをうまく言葉に出来ずにいた。


ふと、自分の後ろから来るはずのジュビアの気配が
消えている事に気付いて、グレイが振り返る。
ジュビアは、アクセサリーショップで、足を止めていた。
そのショップのウィンドウの一点を真剣に見つめている。
「どうした?」
そう言って、グレイが近寄ると、はっと我に返ったジュビアが
「あの指輪、凄く素敵です♪」
少し恥ずかしそうに答えた。
見ると、細かい細工が施され小さな石がついた、
とても綺麗な指輪だった。
“こういうのが好みなのか。”
今まで、ジュビアの好みなど気にも留めなかった分、
彼女の新しい一面が見れた気がして、グレイは小さく微笑んだ。

「なら、俺が買おう!」
グレイとジュビアがその声に驚いて振り向くと、
いつの間にそこに居たのか、リオンが立っていた。
「そして、それをエンゲージリングにする!
ジュビア、このまま婚約しよう!」
「はぇ??!」
そのままの勢いで、ジュビアの腰を抱きながら、
ショップの店内に入るリオンに、グレイが吼える。
「てめぇ、いつからここに居たんだ!
勝手にジュビアを連れて行くな!」

リオンは、そんなグレイを横目で睨むと
「邪魔なのは、いつも貴様だ、グレイ!
それとも、これから俺とジュビアの婚約を祝って
食事でも奢ってくれるのか?」
そう言って、ニヤリと笑った。
「・・・てめぇのそのニヤけた顔に特大の氷のケーキでも
奢ってやるよ。」
グレイはそう言うと、リオンを睨みながら両手に魔力を溜める。
リオンは、そんなグレイに応戦するかの様に身構えた。




“まったく、何考えてやがんだ、リオンの奴。”
夜、自室に戻って、上着をソファにバサリと置けば、
先程まで一緒だったリオンを思い出し、
苦々しい感情が蘇ってくる。

結局、また決着はつかず痛み分けになった事も
グレイには納得がいかない。

部屋の窓を開け、自分の気持ちを落ち着かせようとする。
少し肌寒いが、グレイには心地良い風が全身を吹き抜けていく。



「今までのオレとは違うからな。覚悟しとけよ。」
誰に聞かせる訳でもなく、そうつぶやくと、グレイは夜空を見上げる。


寒空に浮かぶ星々は、氷のごとく綺麗な、鋭い光を放っている。
それはまるで、グレイの意志を表しているかのように煌いていた。

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