めいん

□第三話
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「み、見たって・・・」

 美咲の額に冷や汗が浮かぶ。
 予想はついているというのに、認めたくないという気持ちが混じり、再度問うような形になってしまった。

 伊集院は、人気の少ない路地に美咲を下ろすと、その向かいに立つ。
 美咲を直視しない理由は、云われなくともわかった。

 しばらくの沈黙の後、先に口を開いたのは美咲だった。
 尊敬する大先生、伊集院の口から真実を語られるのは嫌だ。ならば自分から云ったほうが。

「あの、せ、先生・・・このことは―――っ!?」

 他の人には云わないでください。そう云おうと思った途端、伊集院に肩を掴まれた。

「美咲君、あのね。今時男の子が痴漢に遭うだなんよくある話なんだよ。だから、こういう時は警察とかに・・・」
「で、でもっ・・・証拠とか・・・ない、わけですし・・・」

 他人にはっきりと云われてしまうと、「痴漢に遭った」ということが本当なのだと現実に引き戻される。
 伊集院とこうして対話をしていても、先程のおぞましい感覚は抜けず、遂には震え始めてしまった。

「あ、あの・・・そ、の・・・」

 俯いてカタカタと震える美咲に気づき、伊集院は「ご、ごめんね」と手を離した。

「あんなことがあって直ぐに男になんて触られたくないもんね・・・」
「ち、違いますよ・・・その、なんていうか・・・」

 顔を背ける伊集院に美咲は誤解だと云いたかったが、本音は伊集院の云った通り、あまり他人と触れたくないと思ってしまっている。
 語尾がだんだん小さくなっていき、何も云えなくなってしまった美咲は、この状況が息苦しくなり、伊集院に深々と頭を下げて、

「す、すみません。俺、か、帰りますっ」
「家まで送っていくよ?その・・・」
「いえ、大丈夫ですっ本当すみません!ではっ」

 いきなりのことに戸惑いながら、優しく話しかけてくれる伊集院に何度も礼をして走った。
 こういうことはよくないと思っていても、頭の中で整理がつかなくなってしまうと逃げ出してしまうのが自分だ。
 息が荒くなって、走るのが辛くなっても、止まらず美咲は家へと向かった。

 ここで止まってはいけない。
 何故だか、そう思ったのだ。



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